クリタマバチに寄生するオナガコバチ類の生化学的手法による見分け方

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要約

クリタマバチにはチュウゴクオナガコバチの他に数種のオナガコバチが寄生する。外部微細形態とアイソザイム分析,RAPD-PCR法により,オナガコバチ類とその交雑種も含む種・系統の迅速で正確な見分け方を明らかにした。

背景・ねらい

クリタマバチは導入したチュウゴクオナガコバチによって急速に防除されているが,同時に日本在来のオナガコバチ類と複雑な相互関係が見られる。全国的に天敵の効果を持続させるためにはオナガコバチ類(表1)の迅速かつ正確な同定が必要とされる。種の外部形態による識別は既に上条氏によって検索表が作られている。しかしクリマモリオナガコバチの2系統の識別とチュウゴクオナガコバチとの交雑個体の識別はどちらも困難である。そこで外部形態の微細構造を再検討するとともに,生化学的手法を導入して識別方法を確立する。

成果の内容・特徴

  • SS,BE,BLは雄,雌とも後胸背板の溝の長さ,側片溝の幅,縁紋の形態,端刺毛の長さ,後前縁脈と枝脈の間の刺毛の数,前縁脈と翅の表面の刺毛の間隔などの形態的特徴の組み合わせで区別できる(図1)。
  • マリックエンザイムの型はBEでF型,BLとSSではS型であり,BEとSS,BEとBLの判別はできるが,BLとSSとの判別はできない。交雑種SS*BEは両者と区別できる(図2)。
  • プライマ-0PB-15を用いたRAPD-PCR法によりSS,BE,BLの雌成虫を相互に区別することができる(図3)。
  • 交雑種SS*BL,SS*BE,BL*SS,BE*SS(♀*♂)では,雌については産卵管が中間的な長さとなる。後胸背板の溝の形態も中間型となり,相互に区別はできなかった。縁紋の形態も判然としなかった。従って,交雑種については雌の性質を明らかにする形態的基準はない。
  • 雌の系統を明らかにするには,その次世代雄個体(半数体)に雌親個体の遺伝子型が発現するので,飼育によって次世代の雄を採取し,その特徴を調査することで可能である。

成果の活用面・留意点

チュウゴクオナガコバチの交雑による産卵管の短小化などの質的な変化に伴う,クリタマバチ抑制力の変化を監視する。

具体的データ

表1.日本に生息するオナガコバチ類

図1.前翅の緑紋と刺毛の配列による判別

 

図2.マリックエンザイムによる判別 図3.RAPD-PCR法(プライマーOPB-15)による判別

 

その他の特記事項

  • 研究課題名:クリタマバチ寄生蜂Torymus属の系統間・種間関係の解明と同定法の確立
  • 予算区分:経常
  • 研究期間:平成7年度(平成5年~6年)