「豊水」の自家不和合性遺伝子型はS3S5である

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要約

交雑親が不明な「豊水」のS遺伝子型の解析を後代検定によって行った結果、S遺伝子型はS3S5であると判明した。

  • 担当:果樹試験場・育種部・ナシ・クリ育種研究室
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 部会名:果樹
  • 専門:育種
  • 対象:果樹類
  • 分類:研究

背景・ねらい

ニホンナシの育種を効率的に進めるためには、母本品種の自家不和合性遺伝子型(S遺伝子型)を明らかにしておくことが必要であるが、主要品種でもS遺伝子 型が不明なものが多い。「豊水」は交雑親として使われる機会が多いが、交雑の両親が不明であるためにS遺伝子型が未確定であり、育種推進上支障がある。そ こで、「豊水」のS遺伝子型をS3S5と仮定し、「豊水」×「八幸」(S4S5)の後代のS遺伝子型を解析することにより、「豊水」のS遺伝子型の解析を試みた。

成果の内容・特徴

「豊水」×「八幸」の後代にはS遺伝子型がS3S4の個体とS4S5の個体が1:1に出現すると予想され、後代個体に「FC-14」(S3S4)(「菊水」×「長十郎」)と「幸水」(S4S5)の花粉を交雑し、いずれかと不和合性を示した個体は、不和合性を示した花粉親と同一遺伝子型であることから、この方法で後代個体のS遺伝子型を決定した。

  • 「豊水」×「八幸」の後代個体に1995年、1996年の2カ年間、「FC-14」及び「幸水」を交雑することにより、15個体のS遺伝子型が推定できた(S3S4:7個体、S4S5:8個体)(表1)。
  • 自家不和合性の機作は蕾が小さいときは現れず、自家和合性の性質が高いことが知られている。上記2か年の交雑試験で「FC-14」及び「幸水」の両方の花 粉とも和合性を示したため、S遺伝子型を推定できなかった4個体については、蕾が小さい段階で交雑したことが推測された。そこで1997年には蕾が十分に 大きくなるのを待って対照区を入れて交雑試験を行ったところ、対照区は前年までと同じ結果が得られ、上記の4個体はともにFC-14と不和合性を示したの で、S3S4と推定した(表1)。
  • χ2検定の結果、S3S4とS4S5の分離比が1:1の仮説とよく適合し、「豊水」のS遺伝子型は仮説のとおり、S3S5であると結論づけられた(表2)。
  • 大阪大学蛋白質研究所では、2次元電気泳動によりS遺伝子型を解析した結果、豊水のS遺伝子型はS3S5であると推測しており(1998)、本研究結果と一致している。

成果の活用面・留意点

S3S5であるとされている唯一の品種として「丹沢」があるが、果樹試験場保存の「丹沢」は「豊水」と和合性を示す。なお、理論上は「丹沢」の両親からS遺伝子型がS3S5となる後代個体は生じない。

具体的データ

表1.「豊水」×「八幸」の後代個体と「FC-14」及び「幸水」の交雑結果から推定したS遺伝子型

表2.「豊水」のS遺伝子型の分離比の検定

その他

研究課題名:ニホンナシの自家不和合性遺伝子の解析
予算区分  :経常
研究期間  :平成9年度(平成8年~平成10年)
研究担当者:寺井理治、齋藤寿広、西端豊英、壽 和夫
発表論文等:豊水のS遺伝子型の解析、園芸学会雑誌、第66巻別冊2、1997。