未受精胚珠培養によるブドウ「巨峰」の再分化系の開発

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

開花19~21日前の未受精胚珠を培養することにより「巨峰」で不定胚形成能を有するカルスが得られた。 得られたカルスは増殖可能であるとともに植物体が再分化した。「巨峰」の形質転換体作成への道がひらけた。

  • 担当:果樹試験場・カキ・ブドウ支場・育種研究室
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 部会名:果樹
  • 専門:バイテク
  • 対象:果樹類
  • 分類:研究

背景・ねらい

「巨峰」はわが国のブドウでは最も生産量の多い品種であるが、これまで再分化系が開発されていないため、形質転換技術を用いることができなかった。このた め、「巨峰」についても形質転換を行うときに用いる不定胚形成能を有するカルス(embryogeniccallus:EC)を誘導できる条件を検討する とともに、ECを増やせる条件や再分化して植物体の得られる条件についても検討した。

成果の内容・特徴

  • 開花前19~21日の未受精胚珠を、1μM 2,4-Dと0.2μM 4PUあるいは0.2~5μM TDZを含んだ1/2MS液体培地で振とう培養した結果、まず未受精胚珠よりカルスが生じた。置床より3か月後、カルスは部分的に褐変し始め、いくつかの カルスの表面からECがこぼれ落ち始めた。一方、開花前6~7日の胚珠からは得られるカルス数は少なく、また得られたカルスからはECは誘導されなかっ た。(表、図1)。
  • 得られたECは、スクロースのかわりに5%のマルトースを含み、寒天濃度が3%の改変1/2MS培地に1μM 2,4-Dを加えた培地上で増殖できた。
  • 増殖したECを0.85%の寒天濃度の改変1/2MS培地へ移すと、早いものでは約1ヶ月で本葉を有する植物体が得られた(図2)。

成果の活用面・留意点

開花前19~21日というこれまでに試されたことのなかった時期の未受精胚珠を培養に用いることで、「巨峰」で初めてECが得られたことから、この方法を 適用することでまだECの得られていない「巨峰」以外の主要品種からもECが得られるようになる可能性がある。得られたECを形質転換に用いるには、選抜 マーカーであるカナマイシンなどに、どの程度感受性であるか今後更に調べる必要がある。

具体的データ

表.培養を始めて4ヶ月後にembryogenic callusの認められたフラスコ数

図1.「巨峰」の未受精胚珠由来カル

図2.再分化植物体

その他

  • 研究課題名:果樹の形質転換体作出法の開発
  • 予算区分:経常研究
  • 研究期間:平成9年度(平成4年~9年)
  • 研究担当者:中島育子、小林省藏、中村ゆり
  • 発表論文等:Embryogenic callus induction and plant regeneration from unfertilized ovules of ‘Kyoho’grape. 園芸学会雑誌、第67巻別冊1、1998(発表予定)。