温州萎縮ウイルスの遺伝子構造
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要約
温州萎縮ウイルスの全ゲノムの塩基配列を決定し、遺伝子構造を解明した。遺伝子構造はコモウイルス属やネポウイルス属と共通する部分もあったが、5'末端の類似タンパク質や3'末端側の非翻訳領域などの構造が著しく異なり、これまでに報告例のない新しいウイルスであった。
- 果樹試験場・カンキツ部・形質発現研究室
- 連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 部会名:果樹
- 専門:バイテク
- 対象:果樹類
- 分類:研究
背景・ねらい
温州萎縮ウイルスは我が国のカンキツに大きな被害を与えている。本ウイルスはこれまでゲノムの塩基配列、遺伝子構造が不明であり、未分類ウイルスであるので、遺伝子解析を行い、その所属を明らかにする。
成果の内容・特徴
- 温州萎縮ウイルスのゲノム核酸(RNA1、RNA2)の全塩基配列を世界で初めて決定した。RNA1、RNA2は3'末端のポリAの上流はそれぞれ6795塩基、5345塩基であった。
- 塩基配列から推定されるアミノ酸配列により、RNA1、RNA2 はともに一つの長い読みとり枠を持ち、遺伝子産物はポリプロテインとして発現することが判明した。
- 遺伝子構造は、RNA1にポリプロテインのNTP結合領域(ヘリカーゼ)、プロテアーゼ、RNAポリメラーゼ、RNA2にポリプロテインの細胞間移行関与タンパク質、外被タンパク質などがあり、コモウイルス属、ネポウイルス属に共通する部分が認められた。
- 温州萎縮ウイルスはコモウイルス属とは異なりRNA1とRNA2の5'末端領域に共通の類似タンパク質がコードされていた。また、同様のタンパク質を持つ、ネポウイルス属のトマト輪点ウイルスとは、外被タンパク質の数、3'非翻訳領域の長さが大きく異なっていた(図1)。
- 以上の結果から、温州萎縮ウイルスは全く報告例のない遺伝子構造を持ち、新しいウイルス属に分類すべきものと考えられた。
成果の活用・留意点
温州萎縮ウイルスをタイプ種とした新しいウイルス属、genus Satsumavirus を国際ウイルス分類委員会に提唱中である。 決定された塩基配列を利用した遺伝子診断法の開発が期待できる。 温州萎縮ウイルスの解明された遺伝子(外被タンパク質、ポリメラーゼ)は、ウイルス抵抗性カンキツの作出に利用可能である。
具体的データ
その他
- 研究課題名:温州萎縮ウイルスグループ及びカンキツタターリーフウイルスの遺伝子機能解析
- 予算区分 :バイテク(病原遺伝子)
- 研究期間 :平成9年度(平成7年~12年)
- 研究担当者:岩波 徹
- 発表論文等:Iwanami, T. and Ieki, H. (1996). Nucleotide sequence of the coat protein genes of citrus mosaic virus. Virus Res. 42: 181-186.
Iwanami, T., Kondo, K., Makita, Y., Azeyanagi, C., and Ieki, H. (1998).
The nucleotide sequences of the coat protein genes of satsuma dwarf virus and navel infectious mottling virus.
Arch. Virol. 148: 1-8.