イネキチナーゼ遺伝子導入によるうどんこ病抵抗性ブドウの作出

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要約

イネ由来のキチナーゼ遺伝子をブドウ品種「ネオ・マスカット」に導入した形質転換体 NM-Chi-19クローンが、うどんこ病に対して抵抗性を示した。うどんこ病に対する抵抗性は、キチナーゼタンパクの発現量と相関していた。抵抗性個体に接種したうどんこ病菌分生胞子の発芽及び菌糸の生育が阻害され、さらに分生子柄の形成数が少なくなるため、病徴が軽減した。

  • 担当:果樹試験場・育種部・育種技術研究室
  • 担当:果樹試験場・保護部・病原機能研究室
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 部会名:果樹
  • 専門:バイテク
  • 対象:果樹類
  • 分類:研究

背景・ねらい

わが国で発生が認められている植物病害のうち、約 70% は菌類による病気であり、糸状菌抵抗性育種に向けた素材の作出は重要な課題である。特にブドウでは、糸状菌病に対して有用な抵抗性素材が少なく、組換えDNA 技術による抵抗性の付与が大いに期待される。そこで、溶菌酵素であるキチナーゼ*遺伝子導入により、抵抗性ブドウの作出を試みた。なお、本研究は、果樹試、生物研、福岡県農総試との共同研究である。
* 糸状菌の細胞壁の主成分であるキチンを分解する活性を持つ酵素。

成果の内容・特徴

  • イネから単離したキチナーゼ遺伝子(生物研から分譲)をブドウ品種「ネオ・マスカット」に遺伝子導入し、組換え体を多数獲得した。
  • 組換えブドウ数クローンの苗木にうどんこ病菌を接種した結果、NM-Chi-19 クローンがうどんこ病に対して抵抗性を示した(図1)。本組換え体では、コントロールである非組換え体と比較して病徴の進展が抑制された。
  • NM-Chi-19 クローンでは、導入遺伝子を3コピー保持し、キチナーゼタンパクの発現量が多く(図2)、うどんこ病抵抗性が最も強かった。
  • 走査電子顕微鏡でうどんこ病菌の動態を観察した結果、NM-Chi-19 ではうどんこ病菌分生胞子の発芽及び菌糸の生育が阻害され、分生子柄の形成量が少なかった(図3)。

成果の活用面・留意点

得られた組換えブドウは、糸状菌病抵抗性育種に向けた素材としての評価を進める予定である。

具体的データ

図1 うどん粉病菌を摂取して30日目の組換えブドウ及びコントロールのネオマスカット 図2 ウエスタン分析 図3 走査電子顕微鏡による接種4日後のうどんこ病菌の観察

 

その他

  • 研究課題名:菌類病抵抗性ぶどうの作出
  • 予算区分 :バイテク育種
  • 研究期間 :平成 10 年度(平成9年~11 年)
  • 研究担当者:山本俊哉、池谷祐幸、家城洋之、松田長生
  • 発表論文等:Transgenic grapevine plants expressing rice chitinase with enhanced resistance to fungal pathogenes, Plant & Animal Genome 7 (San Diego), 214, 1999.
    キチナーゼ遺伝子導入による菌類病抵抗性ブドウの作出, 育種学雑誌, 48 (別2), 136, 1998.