オウトウ「佐藤錦」の発育モデルによる自発休眠覚醒の推定
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要約
オウトウ「佐藤錦」の自発休眠覚醒までの必要な低温時間を -6°Cから15°Cまでの範囲で温度ごとに明らかにした。この関係を数式化したモデルにより、施設栽培で加温開始期の決定時に必要な自発休眠覚醒期を高い精度で推定できる。
- 担当:果樹試験場・栽培部・気象生態研究室
- 連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 部会名:果樹
- 専門:農業気象
- 対象:果樹類
- 分類:普及
背景・ねらい
オウトウは主要果樹の中では最も施設化率の高い果樹である。施設栽培で加温開始期を決める際には、自発休眠覚醒期の推定が必要だが、自発休眠覚醒に対する有効性の温度間差を考慮しない低温要求時間による推定では精度的な限界があった。そこでこれらの関係を明らかにしモデル化することで常時変動する気温の経過から自発休眠覚醒期を推定する技術を開発した。また近年、冷蔵庫等でオウトウを自発休眠覚醒させる技術も普及し始めており、効率よい温度制御のためにも自発休眠覚醒を推定するモデルが必要である。
成果の内容・特徴
- オウトウ「佐藤錦」のポット植え樹を、-6、-3、0、3、6、9、12、15°Cの低温で連続処理した。それぞれ数日おきに低温処理を中止し、25°Cで加温処理するという方法で、各温度ごとに自発休眠覚醒までに必要な低温時間を明らかにした。
- 処理温度と自発休眠覚醒までの時間の関係を表1に示した。0、3、6°Cは最も効率がよく、-6、15°Cは自発休眠覚醒に至らなかった。
- DVR(発育速度)は自発休眠覚醒までの時間の逆数として得られる(図1)。このとき自発休眠覚醒を推定するモデルは次の式で表される。 DVI=ΣDVR DVI は発育ステ-ジを示す指数で DVI=1 のときが推定される自発休眠覚醒期である。
- 上記モデルの有効性を検討するために露地で観測された気温をモデルに適用し、露地での自発休眠覚醒期を推定した(図2)。露地に置いたポット植え樹を加温し、開花すればその時点で自発休眠覚醒していた。不開花の場合はまだ自発休眠覚醒していなかったと考えられる。推定した自発休眠覚醒期は、露地に置いたポット植え樹の加温後の開花状況とよく一致した(図2)。
成果の活用面・留意点
自発休眠覚醒は連続的な変化で自発休眠覚醒期の判断基準は単一ではない。ここでは 25°Cで加温後 30 日以内に 20% 以上開花すれば自発休眠から覚醒したと判定した。より高い開花率を求める場合は、より長い低温を与える必要があることに、十分留意する。
具体的データ
その他
- 研究課題名:休眠制御によるオウトウの効率的開花結実調節技術
- 予算区分 :実用化促進(促進指導)
- 研究期間 :平成 10 年度(平成7年~ 11 年)
- 研究担当者:杉浦俊彦、伊藤大雄、黒田治之
- 発表論文等:1)The effects of temperature on endodormancy completion in ‘Satonis hiki’cherry (Prunus avium L.), J. Japan Soc. Hort. Sci. 67(1), 113, 1998.
2)オウトウの自発休眠覚醒モデルについて, 農業気象学会講演要旨, 206-207, 1998.