リンゴ果実に腐敗を引き起こす疫病菌の遺伝子診断法

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

各種疫病菌の rDNA-ITS 領域の塩基配列をもとに種特異的な PCR プライマーを設計し、これを用いた PCR によるリンゴ果実腐敗を引き起こす疫病菌の簡易識別法を開発した。

  • 担当:果樹試験場・リンゴ支場・病害研究室
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 部会名:果樹
  • 専門:作物病害
  • 対象:果樹類
  • 分類:研究

背景・ねらい

日本国内において疫病菌は 20 数種が知られ、リンゴ果実に被害を与える疫病菌としてPhytophthora cactorum, P. cambivora, P. syringae の3種の報告がある (図1)。特に P. syringae は収穫後の果実を加害するため被害が大きく、本菌の迅速・簡易な診断法が必要とされている。疫病菌の識別は通常、培養性状、有性・無性世代の形態に基づき 行われるが、繁殖器官の形成には時間がかかるため被害果実の迅速な診断には不向きである。また、リンゴに被害を与える疫病菌に対しては登録農薬がないた め、疫病による被害を軽減するためにはほ場における分布・動態をモニタリングする必要がある。以上のような必要性から遺伝子工学的手法を用い疫病菌の簡易 な識別法を開発する。

成果の内容・特徴

  • リンゴ果実に被害を与える3種の疫病菌、P. cactorum, P. cambivora, P. syringaeの rDNA-ITS 領域の塩基配列を決定した。
  • 決定された3種疫病菌の rDNA-ITS 領域の塩基配列と既報の他種疫病菌の同領域塩基配列を比較し、P. cactorum, P. cambivora, P. syringae の種に特異的な PCR プライマーを設計した( 表1 )。
  • 設計された PCR プライマーを用いることで P. cactorum, P. cambivora, P. syringae各々の識別及び他種疫病菌との識別が可能であった( 図2 )。本プライマーを用いることでリンゴ疫病の病原菌を1日以内で診断できる。

成果の活用面・留意点

  • 非特異的なバンドの増幅をさけるため、PCR はホットスタート法で行うことが望ましい。
  • 本試験は純粋に分離された各種疫病菌を用いて行ったが、果実等を用いて土壌より疫病菌を捕捉した場合においても適用可能である。

具体的データ

図1 P.syringaeによる’王林’果実の腐敗

表1 rDNA-ITS領域の塩基配列に基づき設計したリンゴ疫病菌検出用PCRプライマーセット

図2 種特異的プライマーによるP. cactorum(A), P. cambivora(B), P. syringae(C)の識別

その他

  • 研究課題名:リンゴ果実腐敗を引き起こす疫病菌の簡易識別法の開発
  • 予算区分 :重点基礎
  • 研究期間 :平成 10 年度
  • 研究担当者:須崎浩一、吉田幸二
  • 発表論文等:平成 10 年度日本植物病理学会東北部会, 日植病報, 64, 609,1998.