ミダレカクモンハマキ由来培養細胞系の確立

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要約

リンゴなど落葉果樹の害虫であるミダレカクモンハマキ幼虫から2系統の培養細胞系を確立し、NIFTS-Afusco97 並びに NIFTS-Afusco98 と命名した。これらの細胞系を用いることでミダレカクモンハマキに病原性を示す天敵ウイルスのスクリーニングが可能である。

  • 担当:果樹試験場・保護部・天敵機能研究室
  • 連絡先: 成果情報のお問い合わせ
  • 部会名: 果樹
  • 専門: 作物虫害
  • 対象: 果樹類
  • 分類: 研究

背景・ねらい

ミダレカクモンハマキはリンゴなど落葉果樹の春先の難防除害虫である。幼虫の発生時期が開花時期と重なるため、訪花昆虫の活動の妨げとなる化学殺虫剤の散布は控えなければならず、これへの影響の少ない防除素材の開発が行われた結果、合成性フェロモン剤の開発に成功し、既に普及に移されている。しかしながら、フェロモン剤は地形や風向によって効果が左右されることもあって、これを補完する技術開発が求められている。

天敵ウイルスは有力な環境調和型防除素材の一つであるが、本害虫に対して有効なウイルスは未だ発見されておらず、また、年1化性であることも支障となって、研究は立ち遅れている。

そこで、こうした研究材料の抱える障害を克服するため、本種由来の培養細胞系の確立を図った。

成果の内容・特徴

  • ミダレカクモンハマキの孵化幼虫の細切片を、昆虫細胞培地で培養することによって、2系統の培養細胞系が得られ、NIFTS-Afusco97 細胞系並びに NIFTS-Afusco98 細胞系と命名した。前者は付着性細胞であり、後者は浮遊性細胞であった (図1)。
  • 両細胞系ともこれまでに 40 回以上の植え継ぎが可能であったことから、樹立細胞系と見なされた。
  • 両細胞系とも倍加時間は約 24 時間であり、高い増殖能を示した (図2)。
  • 両培養細胞とミダレカクモンハマキ成虫体細胞から抽出した染色体 DNA を鋳型に用いた RAPD-PCR 像では、Afusco97 細胞系の方が虫体との類似性が高かった (図3)。
  • 両細胞系を用いて天敵ウイルスのスクリーニングを行った結果、アメリカシロヒトリ核多角体病ウイルス (HcNPV) とカイコ核多角体病ウイルス (BmNPV) から作出されたキメラウイルス (HN1) は、細胞核内に多角体を形成し、病原性があることが認められた (図4)。
  • 形成されたキメラウイルス (HN1) の多角体をミダレカクモンハマキ幼虫に経口接種したところ、幼虫に感染することが確認された。

成果の活用面・留意点

本成果は実験系確立のためのものであり、今後は本細胞系を用いてミダレカクモンハマキに有効な天敵ウイルスのスクリ-ニングを行う必要がある。

具体的データ

図1 ミダレカクモンハマキ由来の培養細胞系

図2 ミダレカクモンハマキ培養細胞系の増殖曲線

図3 両培養細胞と虫体染色線色体DNAを鋳型にしたRAPD-PCR像

図4 ミダレカクモンハマキ培養細胞中に形成されたキメラウイルスの多角体

その他

  • 研究課題名:天敵ウイルスの大量増殖技術の開発
  • 予算区分 :経常
  • 研究期間 :平成 11 年度(平成7年 ~ 11 年)
  • 研究担当者:佐藤 威、井原史雄、福田光枝、三代浩二、柳沼勝彦、坂神泰輔
  • 発表論文等:ミダレカクモンハマキ孵化幼虫由来培養細胞系の樹立と性質,第44 回応動昆大会講演要旨, 44, 2000.