自家和合性の後代を効率的に獲得できるナシ中間母本候補「266-27」

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要約

「266-27」は自家和合性品種である「おさ二十世紀」の自殖後代である。「おさ二十世紀」は自家和合性遺伝子を持っているが、「266-27」は自家和合性遺伝子ホモ接合体であり、自家和合性後代を効率的に獲得できる中間母本である。

  • キーワード:ナシ、自家和合性、自家和合性遺伝子ホモ接合体、育種
  • 担当:果樹研・遺伝育種部・ナシ・クリ育種研究室
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹(育種)
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

ニホンナシの高品質果実生産にとって人工受粉は必須な作業となっている。しかし、この作業は短期間に多くの労働力を必要とするため、自家和合性品種育成に対する期待は大きい。ナシ品種「おさ二十世紀」は花柱変異型の自家和合性遺伝子S4sm を持つ自家和合性品種である。そこで、自家和合性育種を効率的に推進するためS4sm 遺伝子ホモ接合体を育成することを目的とする。

成果の内容・特徴

  • 「266-27」は1980年(昭和55年)に「おさ二十世紀」を自殖して得た後代でS4smホモ接合体である。1982年(昭和57年)に定植し、1990年(平成2年)にS4smホモ接合体であることを確認し、一次選抜した(図1)。1992年(平成4年)から後代の育成を開始し、1998年(平成10年)からそれらの自家和合性等について検討した。その結果、後代で自家和合性個体を効率的に獲得できることが明らかとなった。
  • 樹勢は中程度で枝梢の発生はやや多い。腋花芽の着生は少ないが、短果枝の着生は多くその維持は容易である。開花期は遅く、花粉量は「おさ二十世紀」よりやや少ないが、交配等における実用上の問題はない。収穫中央日は9月下旬である。黒斑病には抵抗性である(表1)。
  • 果実は円形を呈する青ナシで無袋では果実全面に中程度のサビが発生する。果実の大きさは230g程度で小さい。果肉硬度は4.4lbs.と軟らかく、果汁糖度は11.5%で中程度、果汁pHは4.9程度でわずかに酸味を感じる(表1)。
  • 片親がS1またはS4遺伝子を持たない場合は本系統を種子親、花粉親のいずれに用いても後代において自家和合性個体を高頻度で獲得できる(表2)。
  • S4smの花粉はS1とS4遺伝子双方に認識されるので、片親がS1またはS4遺伝子のいずれかを持つ場合、本系統を種子親に用いると後代の自家和合性個体の獲得率は50%となる(表2)。一方、花粉親として用いる場合には後代は得られない。
  • 後代の自家和合性個体は自家結実率が最も低い個体でも約43%と実用的に問題のない値であり、何れの組合せにおいてもその平均値が80%前後と極めて高かったことから、自家和合性品種育成を推進する上で効率的である(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 本系統を交雑親として用いると自家和合性後代を効率的に獲得できる。
  • 片親がS1あるいはS4遺伝子を持つかどうかを明らかにする手段として本系統の花粉の受粉が有効である。

具体的データ

表1 「266-27」の特性

 

表2 「266-27」後代の自家和合性個体の分離

 

表3 「266-27」後代の自家和合性個体の自家結実率

 

その他

  • 研究課題名:ニホンナシ第5次育種試験、ナシの自家和合性の遺伝様式の解明、
                      ニホンナシの自家和合性に関する研究、ニホンナシにおける自家和合性品種の育成方法、
                      ニホンナシの自家不和合性遺伝子の解析、ナシの自家不和合性検定個体の作出
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1980 ~ 2001 年度
  • 研究担当者:壽和夫、齋藤寿広、正田守幸、澤村豊、町田裕、梶浦一郎、佐藤義彦、増田亮一、阿部和幸、
                      栗原昭夫、緒方達志、寺井理治、西端豊英、樫村芳記、小園照雄、福田博之、木原武士、鈴木勝征
  • 発表論文等:1)佐藤ら (1991) 園学雑 60(別2):126-127
                      2)佐藤ら (1992) 園学雑 61(別2):16-17
                      3)齋藤ら (2000) 園学雑 69(別2):255