カンキツかいよう病菌の宿主特異的な病原力発現に関与する遺伝子

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要約

カンキツかいよう病菌にはブンタン類に対してのみ特異的に病原力が異なる2つの系統が存在するが,系統間の病原力の違いは本細菌の病原力遺伝子pthAと極めて相同性の高い遺伝子によって支配されている可能性が高い。

  • キーワード:カンキツかいよう病菌、病原力遺伝子、宿主特異性、pthA
  • 担当:果樹研・カンキツ研究部・病害研究室
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹(病害虫)
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

カンキツかいよう病菌(Xanthomonas campestris pv. citri)にはオオタチバナをはじめとするブンタン類に対して特異的に病原力が強い系統と弱い系統の2系統が存在する。これらの系統の差異を遺伝子レベルで明らかにすることにより本細菌の病原力発現機構を解明する。

成果の内容・特徴

  • トランスポゾンTn5をもつベクターpSUP2021を用いて本細菌強病原力系統KC20株及び弱病原力系統KC21株を形質転換し,トランスポゾンタギング実験を行った。その結果,KC21株からのみ,オオタチバナに対する病原力が親株に比べ強まり,強病原力株と同等になった形質転換株Tn46が得られた(表1)。
  • Tn46株のゲノムライブラリーよりTn5配列を含むクローンを選抜してトランスポゾン挿入部位近傍の塩基配列を解読した結果、トランスポゾンはカンキツかいよう病菌の病原力遺伝子pthAと極めて相同性の高いDNA領域に挿入されていた。
  • Tn46株及びKC21株の全DNAをBamHIで切断し,電気泳動後,pthAの内部配列をプローブとしてハイブリダイゼーションを行った。その結果,Tn46株では,親株で検出される2.9 kbのシグナルは検出されず,親株には存在しない5.0 kbのシグナルが検出された(図1)。
  • BamHIで切断したカンキツかいよう病菌の強病原力系統14株及び弱病原力系統14株の全DNAを電気泳動後,pthA内部配列をプローブとしてサザンハイブリダイゼーションを行った。その結果,弱病原力系統株でのみ2.9 kbのシグナルが検出された(図2は結果の一部)。
  • 以上の結果より,カンキツかいよう病菌のブンタン類に対する特異的な病原力の発現には,pthAと極めて相同性の高い遺伝子が関与している可能性が高い。

成果の活用面・留意点

  • pthAは幾つかのXanthomonas属植物病原細菌で存在が確認されている非病原性遺伝子(avr)と極めて相同性が高い。avrはそれと対応する抵抗性遺伝子を持つ宿主に対して抵抗反応を引き起こす。しかし,カンキツかいよう病菌の弱病原力系統はオオタチバナに明確な抵抗反応を引き起こさないため,現在のところ,本系統のみに存在すると思われるpthA様遺伝子の機能は不明である。
  • カンキツかいよう病菌ではpthA様遺伝子として3つ(pthAを含む)が既に報告されている。しかし,本細菌の弱病原力系統にのみ存在するpthA様遺伝子がこれらのうちのいずれと同じか,あるいは未報告の遺伝子かどうかについては変異相補実験を行うなど,さらに調査する必要がある。

具体的データ

表1 KC21株由来のトランスポゾンタギング株Tn46 が各カンキツ植物の葉に形成した病斑の大きさ図1 KC20,KC21 及びTn46 株のBamHIで切断した全DNA に対するサザン解析。プローブにはpthA 内部配列を用いた。

 

図2 カンキツかいよう病菌の強病原力系統(KC5,KC15,KC17,KC18 及びKC22)及び弱 病原力系統(KC1,KC23,KC26,KC27 及びKC28)のBamHI で切断した全DNA に対するサザン解析。

その他

  • 研究課題名:植物病原細菌の病原力制御機構
  • 予算区分:植物微生物
  • 研究期間:2000 ~ 2002 年度
  • 研究担当者:塩谷 浩、伊藤 伝
  • 発表論文等:1)塩谷ら (2001) 日植病報 67:202-203(講演要旨)