ニホンナシ「幸水」の自発休眠覚醒を抑制する温度及びその効果

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要約

ニホンナシ「幸水」の混合芽の自発休眠覚醒に対する効果は-3℃では6℃の1/2~1/3程度であるが、-6℃ではない。21~24℃の高温はそれ以前の低温積算の一部を打ち消して、自発休眠ステージを逆進させる効果があるが、18℃には打ち消し効果はない。

  • キーワード:ニホンナシ、自発休眠、モデル、混合芽、休眠覚醒
  • 担当:果樹研・生理機能部・環境応答研究室
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・栽培、農業気象
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

自発休眠覚醒の正確な推定は、施設栽培による早期出荷を行う上で重要な技術である。ニホンナシ「幸水」の混合芽について0~12℃の範囲 で温度と自発休眠覚醒効果の関係がモデル化され、自発休眠覚醒期の推定が可能となっているが、それ以外の温度については0℃あるいは12℃の値を外挿して 使用されていた。しかし実際には低温にもかかわらず自発休眠覚醒に対し無効な温度やそれまでの低温積算を打ち消すような高温が存在する。そこでこれらの温 度と混合芽の自発休眠覚醒との関係を実験によって明らかにした。

成果の内容・特徴

  • 10月下旬から昼夜6℃(対照区)又は昼夜に異なる温度を冷蔵庫等で処理した後、25℃で加温して混合芽の開花率から自発休眠覚醒したか、未覚醒であるかを判定した(図1)。なお6℃は最も自発休眠覚醒効果が高い温度域に含まれる温度である。
  • 6℃を約780時間処理すると(処理1、対照区)自発休眠から覚醒するが、6℃での処理時間を短縮し、その不足分(約260~380時間)をほぼ同じ長さの-3℃処理に置き換えると(処理2~3)自発休眠から覚醒しない(図2)。すなわち-3℃の自発休眠覚醒に対する効果は6℃よりも劣る。
  • 対照区と比べ、6℃処理時間の不足分の2倍程度の時間を-3℃処理に置き換えると(処理4~5)自発休眠から覚醒しないが、3倍程度を-3℃処理に置き換えると(処理6)自発休眠から覚醒する(図3)。すなわち-3℃は自発休眠覚醒に対して有効な温度であるものの、その有効性は6℃に比べて1/2よりは小さく、1/3よりは大きい。
  • -6℃(処理8~9)の自発休眠覚醒に対する効果はない(図2)。
  • 6℃処理時間を対照区と同程度(処理10)とし、昼間に18℃で処理を行って低温積算を中断しても自発休眠覚醒する(図3)。すなわち18℃の自発休眠覚醒に対する影響はない。
  • 6℃処理時間を対照区と同程度とし、昼間に24℃で低温積算を中断すると(処理12)自発休眠から覚醒しない(図4)。すなわち24℃は自発休眠覚醒に効果がないばかりか、自発休眠期の低温積算を打ち消す温度である。
  • 24℃を600時間、6℃を約1,250時間処理とした樹(処理14)が自発休眠覚醒しないのに対し、1,560時間処理とした樹(処理15)は自発休眠覚醒する(図4)。これらのことは24℃に1時間遭遇した場合の打ち消し効果は6℃付近に1時間遭遇した場合の促進効果を無効にする程度の大きさがあることを示す。
  • 21℃の打ち消し効果も、24℃と同程度である。

成果の活用面・留意点

  • この成果はすでに開発したニホンナシ自発休眠覚醒モデル(杉浦ら、1997)による予測値を解釈する際の参考とする。

具体的データ

図1 自発休眠覚醒した樹(右2樹)と未覚醒の樹(左2樹)

 

図2 対照区(処理1)。昼6℃夜-3℃(処理2-7)及び昼6℃夜-6℃(処理8-9)を処理した樹の自発休眠覚醒状況 図3 昼18℃夜6℃処理した樹の自発休眠覚醒状況 図4 昼24℃夜6℃処理した樹の自発休眠覚醒状況

 

その他

  • 研究課題名:休眠機構の解明並びに機構的休眠・開花モデルの開発
  • 課題ID:09-01-06-01-01-03
  • 予算区分:超省力園芸
  • 研究期間:2001~2004年度
  • 研究担当者:杉浦俊彦、黒田治之、杉浦裕義
  • 発表論文等:1)杉浦ら(2003)農業気象59:43-49.