カロテノイド生合成阻害物質の作用点スクリーニング技術

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要約

開発した手法はカンキツからカロテノイド生合成に関わる酵素遺伝子を収集し、この遺伝子群を大腸菌に集積させて、カロテノイド生合成系阻害物質をスクリーニングするシステムである。阻害活性の有無が目視で評価できる利点を持ち、簡易迅速な評価手法である。

  • キーワード:阻害剤、フィトエン不飽和化酵素、ζーカロテン不飽和化酵素、カロテノイド
  • 担当:果樹研・カンキツ研究部・上席研究官
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・栽培
  • 分類:技術・参考

背景・ねらい

近年、光合成に関連する色素のカロテノイド生合成を阻害することにより殺草する白化除草剤が注目されており、簡便で迅速なカロテノイド生 合成阻害物質のスクリーニング法の開発が求められている。現在のところ、カロテノイド生合成阻害物質の作用点をスクリーニングするのに、カロテノイド生合 成に関わる酵素を植物から精製し、それらに対する阻害活性の有無を個別に調べる手法がある。しかしながら、ターゲットとなりうる酵素が多数あることに加 え、その酵素毎に基質類を整えなければならないので多大な経費と労力が必要である。そこで、カンキツ由来のカロテノイド生合成に関わる酵素遺伝子類を大腸 菌で発現させることによる簡易な作用点スクリーニング技術を開発しようとした。

成果の内容・特徴

  • 本手法の手順は以下の通りである。
    1) Erwinia uredovora由来のゲラニルゲラニルピロフォスフェート合成酵素(crtE)とフィトエン合成酵素(crtB)の遺伝子を用いてフィトエンを生成する大腸菌を作製する。
    2) ウンシュウミカン「宮川早生」から調製したフィトエン不飽和化酵素遺伝子、ζ-カロテン不飽和化酵素遺伝子を用いて、さらに形質転換する。
    3) この大腸菌は、ウンシュウミカン由来のフィトエン不飽和化酵素とζ-カロテン不飽和化酵素が菌体内において機能 を発現し、本来大腸菌体内には存在しないフィトエン、フィトフルエン、ζ-カロテン、ニューロスポレン、リコペンが生成する。そのため、本来大腸菌は白色 であるが、本形質転換大腸菌は濃い黄色を呈する。
    4) フィトエン不飽和化酵素の阻害剤ノルフルラゾンを添加して、形質転換大腸菌を培養するとカロテノイド生成を示す黄色を生じない(写真1)。また、目視による黄色程度の評価はζ-カロテン以降のカロテノイド生成の多寡とよく一致する(表1)。
  • 以上は、形質転換大腸菌を用いて、カロテノイド生合成阻害物質の作用点スクリーニングが可能であることをしている。なお、このスクリーニングシステムの操作は短期間に多点数の評価が可能である(図1)。従来法では標的となる複数酵素の精製、基質となる複数のカロテノイドが必要であり、酵素阻害も酵素ごとに測定する必要がある。本法では測定のたびに酵素を抽出することなく、後はルーティン的な簡便な調査が可能である。

成果の活用面・留意点

  • 作用機作不明の白化剤からカロテノイド生合成系の阻害剤を探索すること、阻害する部位の確定を行う際に有効な技術である。
  • 本システムは、カロテノイド生合成系と植物体内でリンクしているプラストキノン合成系を阻害することによってカロテノイド生合成を間接的に阻害するP-ヒドロフェニルピルビン酸オキシゲナーゼ(HPPD)阻害剤のスクリーニングには利用できない。
  • 今回検討した系ではゲラニルゲラニルピロフォスフェート合成酵素、フィトエン合成酵素、フィトエン不飽和化酵素、ζ-カロテ ン不飽和化酵素についての阻害剤スクリーニングと作用点の確定に使用できるが、リコペン β- 環化酵素等の遺伝子を用いれば、理論的には全段階のスクリーニングが可能である。

具体的データ

表1 目視による阻害活性評価とカロテノイド生成量図1 スクリーニングシステム 操作手順

 

左:無処理 右:阻害剤処理

 

 

その他

  • 研究課題名:カロテノイド生合成遺伝子の制御法の検討
  • 課題ID:09-02-06-*-07-02
  • 予算区分:新雑草防除
  • 研究期間:2000~2002年度
  • 研究担当者:矢野昌充、加藤雅也、生駒吉識