ブドウ「巨峰」のアグロバクテリウム法による形質転換

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要約

形質転換体の作出が困難なブドウの基幹品種「巨峰」のエンブリオジェニックカルスにGFP遺伝子を持つアグロバクテリウムを感染させ、GFP蛍光のある形質転換体が獲得できる。

  • キーワード:巨峰、アグロバクテリウム、エンブリオジェニックカルス、GFP
  • 担当:果樹研・遺伝育種部・育種技術研究室
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・育種
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

「巨峰」は我が国において最も広く栽培されているブドウ品種であり、多くの品種の交雑親としても用いられている。しかし、「巨峰」の栽培 では、花振るい性、着色の不安定性、収穫後の脱粒による日持ちの悪さ、耐病虫性の不足などが問題としてあげられ、改善が求められている。ブドウの品種改良 は通常交雑育種により行われるが、近年、多くの作物で遺伝子組換え技術を用いた育種が進展している。我が国では「甲州三尺」や「ネオ・マスカット」などい くつかの品種で形質転換体の作出が報告されているが、基幹品種である「巨峰」では困難とされ、これまで報告がない。そこで我々は「巨峰」におけるアグロバ クテリウム法による形質転換技術確立を目的として、「巨峰」のエンブリオジェニックカルス(EC)に緑色蛍光を発するオワンクラゲのGFP遺伝子の導入を 試みた。

成果の内容・特徴

  • アグロバクテリウムの感染には、1/2MSあるいはNNに1μMの2,4-Dを添加した培地で継代維持している「巨峰」未受精胚珠由来のECを用いる。
  • アグロバクテリウムはEHA105を用いる。アグロバクテリウムとECを100μMアセトシリンゴン含有1/2MS培地(5%マルトース、0.85%寒天)上で、26℃暗黒下、6日間共存培養させ、感染を促す。
  • アグロバクテリウムを感染させたECは、200μg/mlクラホランと15μg/mlカナマイシンを含む1/2MS培地 (0.85%寒天)に2週間、寒天濃度が3%の同培地に1ヶ月置き、その後、選抜培地のカナマイシン濃度を15μg/mlとして、4ヶ月間形質転換体の選 抜を行う。
  • 選抜培地でもやし状に伸長したGFP蛍光のある不定胚は、ゼアチン5μMを含んだ1/2MS培地(1%寒天)へ移植して本葉の展開を促すと、GFP蛍光を発する「巨峰」形質転換体が得られる(表1、図1)。

成果の活用面・留意点

  • 「巨峰」の形質転換が可能となったため、今後この方法を用いて、耐病性遺伝子などの有用遺伝子を「巨峰」に導入することが可能である。
  • 「巨峰」を交雑親に持つ品種、あるいは形質転換体獲得が困難な欧米雑種について、今後この方法を応用し、形質転換体獲得技術を確立する必要がある。

具体的データ

ブドウ「巨峰」のアグロバクテリウム法による形質転換

 

図1 GFP蛍光を発する巨峰形質転換体

 

その他

  • 研究課題名:落葉果樹類における効率的遺伝子導入技術の開発
  • 課題ID:09-02-05-*-02-03
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001~2005年度
  • 研究担当者:中島育子、松田長生、小林省藏、山本俊哉、副島淳一