ブドウの果皮色変異にレトロトランスポゾンが関わっている

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

  黄緑色品種の「イタリア」では、レトロトランスポゾンが入り込んだMyb様転写因子遺伝子VvmybA1がホモで存在し、遺伝子の転写が完全に抑制されている。「イタリア」から枝変わりで出現した赤色品種の「ルビー・オクヤマ」では、一方の遺伝子からレトロトランスポゾンが抜けて遺伝子の転写が回復している。

  • キーワード:ブドウ、アントシアニン合成、転写因子、レトロトランスポゾン
  • 担当:果樹研・ブドウカキ研究部・上席研究官
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・栽培
  • 分類:科学・普及

背景・ねらい

  ブドウの赤色品種「ルビー・オクヤマ」は、黄緑色品種「イタリア」の枝変わりであるが、果皮色が黄緑色から赤色へと変化した原因は不明である。これまでに、Myb様転写因子遺伝子VvmybA1は、アントシアニン合成を誘導する機能をもつとともに、黄緑色品種では発現しておらず、赤色品種では発現しているなど、ブドウにおけるアントシアニンの合成制御に深く関わっていることを明らかにしたが、VvmybA1遺伝子が赤色枝変わり品種で発現するようになった機構を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 「イタリア」から単離したゲノミック・クローンには、VvmybA1の5'上流にTy3-gypsyタイプのGret1と名付けたレトロトランスポゾン(トランスポゾンとは、転移する遺伝因子のことで、RNAを転移の中間体とするものを特にレトロトランスポゾンと呼ぶ)が入り込んでいる(図1)。このレトロトランスポゾンの挿入により「イタリア」ではVvmybA1が転写されずアントシアニンが合成されない。
  • 「ルビー・オクヤマ」にはGret1が挿入されているクローン(VvmybA1a)の他、一方のlong terminal repeat (LTR)のみを残してGret1の大部分が消失したクローン(VvmybA1b)が存在する(図1)。「ルビー・オクヤマ」では、このことによりVvmybA1の転写が回復し、アントシアニンの合成が誘導される。
  • 図2のすべての品種で、VvmybA1遺伝子へのGret1の挿入がPCRで確認され、(図2A)、シーケンスもVvmybA1aと一致する。また、同じ品種についてVvmybA1bを検出すると、黄緑色品種ではバンドが検出されない(図2B;1,3,5-12,19,20)。このことは、黄緑色品種はVvmybA1aをホモでもつかVvmybA1bが欠失したヌル変異であることを示す。
  • V. viniferaの黒色・赤色品種では、サイズの小さいバンドが検出されるが(図2B;13-18)、これらはLTRを含まないオリジナルの対立遺伝子VvmybA1cで、調査した黒色・赤色品種の遺伝子型はVvmybA1aVvmybA1cのヘテロである。

成果の活用面・留意点

  • VvmybA1遺伝子は、ブドウの果皮色の進化を探る道具として利用できる。
  • VvmybA1遺伝子は、遺伝子工学的に黄緑色品種を赤色品種に形質転換させる遺伝子として利用できる。

具体的データ

図1 イタリアとルビー・オクヤマにおけるVvmybA1 5'上流域の比較

 

図2 ブドウ品種におけるVvmybA1a (A)とVvmybA1b (B)のPCR による検出

その他

  • 研究課題名:ブドウの果皮色を制御する遺伝子の単離・解析
  • 課題ID:09-02-01-01-08-03
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001~2003年度
  • 研究担当者:小林省藏、後藤奈美(酒類総研)、廣近洋彦(生物研)
  • 発表論文等:1)Kobayashi et al. (2004) Science 304:982.