モモにおける不溶質及び硬肉の遺伝様式

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要約

  モモの肉質の表現型である溶質、不溶質及び硬肉は、互いに独立した軟化型/非軟化型(硬肉)と溶質/不溶質の2つの異なる遺伝子座に支配される。軟化型は非軟化型に対して、また溶質は不溶質に対して優性である。硬肉個体における溶質/不溶質に関する表現型は適切なエチレン処理によって判定可能である。

  • キーワード:モモ、遺伝、肉質、エチレン処理
  • 担当:果樹研・遺伝育種部・核果類育種研究室
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・育種
  • 分類:科学・参考

背景・ねらい

  モモ果実の肉質はエチレンを生成し軟化する型(軟化型)とエチレン生成の抑制により軟化が起こらない型(非軟化型)に分けられる。前者はさらに急速に軟化する型と緩慢に軟化する型に分けられ、それぞれ溶質と不溶質とよばれる。一方、非軟化型は硬肉ともよばれ、エチレン処理により溶質タイプの軟化をする品種として「有明」などが知られているが、不溶質タイプの軟化をするものは報告されていない。不溶質、非軟化型の表現型を有する品種・系統は生食用モモの画期的な日持ち性向上育種への利用が期待されるが、各表現型相互の遺伝関係は不明であるため、モモの肉質の遺伝様式を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 不溶質品種「錦」と非軟化型品種「有明」の雑種第1代(F1)個体はすべてが速やかに軟化し、軟化型・溶質と判定される(表1)。
  • 雑種第1代の1個体の自殖(F2)による72個体のうち53個体では軟化がみられ、このうちの40個体は速やかに、13個体は緩慢に軟化するため、前者は軟化型・溶質、後者は軟化型・不溶質と判定される(表1)。
  • F2のうち19個体は軟化が認められず、非軟化型と判定される(表1)。非軟化型個体の果実に対して25℃で1,000ppmのエチレン処理を行うといずれも果肉の軟化が認められる。「351-18」などの15個体は急速に軟化し、「351-17」などの4個体では果肉が緩慢に軟化することから、前者は非軟化型・溶質、後者は非軟化型・不溶質と判定される(表1、図1)。
  • 軟化型/非軟化型にHd/hd、溶質/不溶質にM/m、の各遺伝子記号を与えると、「錦」、「有明」の肉質に関する遺伝子型はHd-mm(軟化型・不溶質)、hdhdM-(非軟化型・溶質)となる。また、F1個体はすべて軟化型・溶質であることからその遺伝子型はHdhdMmとなり、F2ではHd-M-(軟化型・溶質)、Hd-mm(軟化型・不溶質)、hdhdM-(非軟化型・溶質)、hdhdmm(非軟化型・不溶質)が9:3:3:1に分離すると期待される。今回のF2における観察結果は上記の仮説を支持し、分離の適合度は5%レベルで矛盾しない(表1)。以上のようにモモの肉質は互いに独立した軟化型/非軟化型と溶質/不溶質の2つの異なる遺伝子座に支配される。

成果の活用面・留意点

  • 交雑実生における溶質、不溶質及び非軟化型の分離比が予想できるため、合理的な交雑計画が可能になる。
  • 非軟化型個体における溶質/不溶質に関する表現型を判定するには、エチレン処理により軟化させる必要がある。

具体的データ

表1 不溶質品種「錦」と非軟化型品種「有明」のF1 およびF2 における肉質の分離

 

図1.溶質品種「あかつき」、不溶質品種「錦」、および「錦」と非軟化型品種「有明」の交雑後代F2実生「351-18」と「351-17」における果肉硬度の変化「351-18」は非軟化型・溶質、「351-17」は非軟化型・不溶質。

その他

  • 研究課題名:硬肉性モモの軟化とエチレンとの関係
  • 課題ID:09-01-03-*-08-04
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2001~2005年度
  • 研究担当者:土師 岳、末貞佑子、八重垣英明、山口正己