菌類ウイルスの一種、totivirusの紫紋羽病菌に対する病原力低下能
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要約
紫紋羽病菌の弱病原力株で見出されたTotivirus属に所属するHmTV1-17 virusは、紫紋羽病菌モノカリオンによって水平伝搬され、宿主である紫紋羽病菌に病原力低下を引き起こす。
- キーワード:紫紋羽病、totivirus、病原力低下、モノカリオン
- 担当:果樹研・リンゴ研究部・病害研究室、農環研・土壌微生物生態ユニット、果樹研・生産環境部・病害研究室、 広島県立大・生物資源学部
- 連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 区分:果樹・病害虫、東北農業・果樹
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
紫紋羽病は植物の根を侵す病害であり、果樹のような永年性作物では薬剤投入量に見合った防除効果が必ずしも期待できないことから、宿主病原菌に対し病原力低下能を有するdsRNA(菌類ウイルス)を利用した環境負荷低減型の防除技術が期待されている。病原力の弱い紫紋羽病菌V17株においてTotivirus属に所属する菌類ウイルス、HmTV1-17 virusが発見されていることから、本ウイルスをモノカリオンを用いた手法(平成15年度果樹研究成果情報)により異なるMCG(栄養菌糸和合性群)に属する紫紋羽病菌菌株に感染させ、宿主紫紋羽病菌菌株に対する病原力低下能を明らかにする。
成果の内容・特徴
- HmTV1-17 virusに感染した紫紋羽病菌モノカリオンV3M(17)株を、この菌株とはMCGが異なる紫紋羽病菌とオートミール寒天培地上で対峙培養させると、HmTV1-17 virusはモノカリオン菌株V3M(17)株から、13の異なるMCGに属する菌株に水平伝搬する。
- HmTV1-17 virusに感染した紫紋羽病菌のうち、それぞれMCGが異なるV11(17)株、V12(17)株、V21 (17)株及びV664(17)株(括弧を付した17は、HmTV1-17 virusに感染した菌株であることを示す)をリンゴ台木のマルバカイドウ挿木苗に接種すると、いずれの菌株においてもHmTV1-17 virusに感染していない野性株に比較してマルバカイドウの枯死率が低下し、病原力の低下が認められる(図1)。
- HmTV1-17 virusに感染した菌株と感染前の野性株についてrep-PCR DNAフィンガープリンティングを行うと、ウイルスの感染前後でフィンガープリントに変化がみられない(図2)。
- 以上から、紫紋羽病菌の病原力低下は菌糸融合時の核の置換など遺伝的な変化によるものではなく、HmTV1-17 virusの感染によって引き起こされると考えられる。
成果の活用面・留意点
- HmTV1-17 virusは紫紋羽病菌の病原力を低下させることが確認されたことから、今後紫紋羽病防除への利用が期待される。
- 病原力低下の程度はもともとdsRNAフリーの菌株(V664株)に比較し、すでに何らかのdsRNAが感染している菌株(V11株、V12株及びV21株)で大きかったことから、ウイルスの重複感染がさらに病原力を低下させる可能性があると考えられ、今後詳細に調べる必要がある。
具体的データ
その他
- 研究課題名:病原性低下因子導入技術の開発
- 課題ID:09-03-02-02-11-02
- 予算区分:紋羽治療(生研一般型)
- 研究期間:1998~2002年度
- 研究担当者:須崎浩一、佐々木厚子、兼松聡子、吉田幸二、松本直幸(農環研)、森永 力(広島県立大)