白紋羽病菌の病原力を低下させる菌類レオウイルス
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要約
病原力の弱い白紋羽病菌W370株から見いだされたレオウイルスは、本ウイルスを含まない白紋羽病菌の強病原力株に感染させると、感染菌株の病原力を低下させる。
- キーワード:果樹、病害、生物防除、白紋羽病、菌類、ウイルス
- 担当:果樹研・リンゴ研究部・病害研究室、農環研・土壌微生物生態ユニット、果樹研・生産環境部・病害研究室
- 連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 区分:果樹・病害虫、東北農業・果樹
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
白紋羽病はリンゴやナシ、ブドウなど多くの果樹の根を腐敗させ、枯死にいたらしめる難防除病害である。農薬に依存せず、環境負荷の少ない新たな防除法を開発するため、病原菌に寄生して病原力を低下させる菌類ウイルスを利用することを試みた。白紋羽病菌の弱病原力株であるW370株は12分節の二本鎖RNA(W370dsRNA)をゲノムとするレオウイルスを含んでいるが、本研究では、このレオウイルスが白紋羽病菌の病原力を低下させうるかどうかについて検討し、生物防除剤としての利用の可能性を探る。
成果の内容・特徴
- 白紋羽病菌W370株に含まれていたレオウイルスを単菌糸分離により除去し、ウイルスフリー株(W370T1)を得た。さらに、対峙培養によりW370に含まれているウイルスをウイルスフリー株に移行させる際に、W370株由来の菌糸の混入を防ぐため、形質転換によってW370T1に薬剤耐性を付与し、ウイルス受容株(RT37-1)とした。最終的にRT37-1株をW370株と対峙培養し、菌糸を接触させた後、薬剤を含む培地で受容株を再培養することにより、W370株からRT37-1株にW370dsRNAを移行させた株を作出した(RT37-1(W370dsRNA+)1~4)(図1)。
- W370株及びW370株に含まれていたウイルスを移行させた株(RT37-1(W370dsRNA+)1~4))は、ウイルスフリー株(W370T1、RT37-1)に比較して、土壌中における菌糸の生育が遅延する。
- リンゴ実生の根に菌を培養した枝片を接触させることにより接種試験を行い、菌株の病原力を評価した。ウイルスを含む株(W370、RT37-1(W370dsRNA+)1~4))はウイルスフリー株(W370T1、RT37-1)に比較するとリンゴ実生に対する病原力が低下する(図2、表1)。
- 以上から、白紋羽病菌W370株から見いだされたレオウイルスは、白紋羽病菌に対して病原力低下効果をもつことが明らかである。
成果の活用面・留意点
- 白紋羽病防除のための病原力低下因子として、利用できる可能性がある。
- 本レオウイルスは、継代培養中に白紋羽病菌菌糸から抜け落ちる場合があるので、注意を要する。
具体的データ
その他
- 研究課題名:病原性低下因子導入技術の開発及び導入菌株の作出
- 課題ID:09-03-02-02-11-02
- 予算区分:生研一般型
- 研究期間:1998~2002年度
- 研究担当者:兼松聡子、荒川征夫(農環研)、大崎秀樹、中村 仁、池田健一(農環研)、久我ゆかり(農環研)、
新田浩通(広島農研セ)、佐々木厚子、須崎浩一、吉田幸二、松本直幸(農環研)
- 発表論文等:1) S. Kanematsu et al. (2004) Phytopathology 91:561-568.