リンゴのアントシアニン生合成系酵素遺伝子の発現は高温により抑制される
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要約
アントシアニン生合成促進効果のある紫外線(UV-B)の照射下で低温(17℃)に置いたリンゴ成熟果ではアントシアニン生合成系
酵素遺伝子の発現が誘導されるが、高温(27℃)条件では抑制されることから、高温によるアントシアニン蓄積不良の一因は生合成系酵素遺伝子の発現量低下にある。
- キーワード:リンゴ、アントシアニン、気候温暖化、着色不良、UV-B、遺伝子発現
- 担当:果樹研・生理機能部・形質発現研究室
- 連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 区分:果樹・栽培
- 分類:科学・参考
背景・ねらい
アントシアニン色素によるリンゴ果実の着色は果実の商品価値を大きく左右する要因の一つであるが、収穫期にリンゴ果実が高温にさら
されるとアントシアニン色素が十分に蓄積されないため十分な赤色にならないことが知られている。今後、気候温暖化の影響により収穫期の気温が高くなると予
想されており、これに伴って果実の着色不良が危惧されている。そこで、本研究では、高温下でリンゴ果皮におけるアントシアニン蓄積抑制機構を解明すること
を目的として、生合成系酵素遺伝子の発現と温度との関係を解明する。また同時に、アントシアニン生合成促進効果の高い紫外線(UV-B)の照射と生合成系
酵素遺伝子の発現との関係を調べる。
成果の内容・特徴
- リンゴの早生品種「祝」、「つがる」、「さんさ」、「芳明つがる」、「あかね」の果実では、8月下旬から9月上旬の成熟期にかけて果皮のアントシアニン含有量が増加する(図1)。
これと同じ時期に、アントシアニン生合成系酵素であるカルコン合成酵素(CHS)、フラボノイド3-水酸化酵素(F3H)、ジヒドロフラボノール4-還元
酵素(DFR)、アントシアニジン合成酵素(ANS)、フラボノイド糖転移酵素(UFGT)の遺伝子の発現量が増加する(図2)。
- 収穫期の約一ヶ月前から袋がけをしておいた「祝」、「つがる」、「さんさ」、「あかね」の果実を収穫適期に収穫し除
袋する。この果実に低温条件(17℃)でUV-Bと白色光との混合光を照射した場合、顕著にアントシアニン生合成が誘導されるのに対し、UV-Bを照射せ
ず白色光のみを照射した場合は誘導されない(図3)。このとき、UV-B照射条件では生合成系酵素遺伝子の発現量は増加するのに対し、UV-B非照射条件では誘導されない(図4)。
- 収穫・除袋後の果実にUV-Bと白色光との混合光を照射した条件で低温処理(17℃)を施すとアントシアニン生合成が誘導されるが、高温条件(27℃)ではアントシアニン生合成は誘導されない(図3)。この時、低温処理によってアントシアニン生合成系酵素遺伝子の発現量は増加するのに対し、高温処理では増加しない(図4)。
成果の活用面・留意点
- 本研究の成果は、果実の着色不良機構を解明するための手がかりとして活用できる。
具体的データ
その他
- 研究課題名:高温ストレスによる果実の着色不良機構の解明
- 課題ID:09-02-01-*-11-05
- 予算区分:気候温暖化
- 研究期間:2003∼2007年度
- 研究担当者:本多親子、Benjamin Ewa Ubi、森口卓哉
- 発表論文等:Ubi et al. Plant Sci. 170 (3): 571-578