ウメ「南高」の果実の仁中微量元素組成による国内生産地域の推定

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要約

ウメ「南高」果実の仁中微量元素組成の多変量解析から、国内の栽培地域のうち九州、近畿中国四国、関東東海の3地域を判別する基準を見出した。産地判別の結果は土壌の微量元素濃度の違いが反映されている。

  • キーワード:ウメ、産地判別、微量元素、判別分析、主成分分析、ICP発光分析
  • 担当:果樹研・生理機能部・根圏機能研究室
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・栽培、共通基盤・土壌肥料
  • 分類:行政・参考

背景・ねらい

農産物の産地表示の偽装が近年問題になっており、ウメにおいても産地間の価格差が大きいことから、産地表示の偽装が懸念されてい る。この表示の適切性の判定には、科学的根拠に基づいた判別手法が必要となる。コメ、チャ、ネギ等では元素組成による産地判別が検討されている。そこで、 ウメの微量元素組成から産地を判別する手法を開発する。

成果の内容・特徴

  • ウメ「南高」果実種子の仁を取りだし、硝酸で分解後、誘導結合プラズマ(ICP)発光分析装置で多元素を同時に定量 することにより、ウメ1粒ごとの産地を判別できる。入手容易な市販の混合標準液(23元素)を用い、微量元素のうちウメ仁中で安定して測定可能な9元素 (Zn,Fe,Mn,Cu,Sr,Ba,Ni,Co,Cr)で判別を行う。
  • 「南高」は上記9元素の組成を用いた主成分分析により、九州(6県16産地)、近畿中国四国(7県19産地)、関東東海(5県15産地)の3地域に分離する(図1)。さらに判別分析を行うと、3地域の「南高」は80%の的中率で判別できる(図2)。
  • 「南高」の産地を樹園地に多くみられる3種類の土壌である火山灰土(黒ボク土+火山未熟土)、褐色土(褐色森林土+褐色低地土)、黄色土で分類し、「南高」仁中の元素濃度を用いて判別分析を行うと、86%の的中率で判別できる(図3)。
  • 土壌中の元素濃度と「南高」の仁中の元素濃度には相関関係が見られ(図4)、産地ごとの土壌中元素濃度の違いが仁の微量元素濃度に反映している。したがって「南高」以外の品種にも適用可能である。

成果の活用面・留意点

  • 本手法は塩蔵による元素変動が少ない仁を分析部位とし、ウメ干しにおいても適用が可能である。
  • 食品表示のチェックを行っている行政機関等で利用できる。
  • 各地の代表的ウメ産地から入手したサンプルのため、九州では8/16サンプルが火山灰土(5/16サンプルは褐色 土)、近畿中国四国では16/19サンプルが褐色土(その他は黄色土)、関東東海では13/15サンプルが火山灰土(その他は黄色土)と、地域により土壌 タイプに偏りがあるが、ウメと土壌中の元素組成から地域による土壌タイプの違いよりも、地域間の元素濃度の違いの方が産地の判別結果に大きく寄与したと考 えられる。

具体的データ

図1 ウメ仁中の9元素濃度組成による主成分分析(n=50)

 

図2 ウメ仁中の9元素濃度を用いた産地による判別分析(n=50)

 

図3 ウメ仁中の9元素濃度を用いた土壌の違いによる判別分析(n=50)

 

図4 クエン酸抽出による土壌中元素濃度とウメ仁中濃度との関係(n=35)

 

その他

  • 研究課題名:ウメの微量金属元素分析による原産地判別技術の開発
  • 課題ID:09-03-08-01-08-04
  • 予算区分:農水委託金(高度化事業)
  • 研究期間:2002∼2004年度
  • 研究担当者:井上博道、梅宮善章、増田欣也、中村ゆり
  • 発表論文等:井上ら(2005)土肥誌76:441-447