担子菌類で初めて見出されたEndornavirus属ウイルス

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要約

紫紋羽病菌V670株に病原力低下を引き起こすL1 dsRNAは16,614塩基から成り、5’側から2,522塩基の位置にニックが存在し、Endornavirus属ウイルスのRdRp、ヘリカーゼ、UGTモチーフと相同な配列を持つ。これらの特徴から、L1 dsRNAは担子菌類では報告されたことがないEndornavirus属の一種である。

  • キーワード:紫紋羽病菌、病原力低下因子、ニック、RdRp、ヘリカーゼ、UGTモチーフ
  • 担当:果樹研・果樹病害研究チーム
  • 連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・病害虫
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

紫紋羽病菌のV670株が保持するL1とL2の2種のdsRNAのうち、L1 dsRNAは病原力低下因子であることが示されている(Ikeda et al. 2003)。L1 dsRNAを今後防除資材として利用していく可能性を探るため、dsRNAの塩基配列を解析しウイルス種を明らかとする。

成果の内容・特徴

  • V670株のL1 dsRNAの全塩基配列は16,614塩基から成り、菌類で見出されたウイルスの中では最長である。また5’側から2,522塩基の位置にニックが存在している。
  • V670株のL1 dsRNAのゲノムには5373アミノ酸からなるORFが見出され、この内部にはEndornavirus属ウイルスのRNA依存RNAポリメラーゼ (RdRp)、ヘリカーゼ、UDP-グリコシルトランスフェラーゼ (UGT)と相同性を示す領域が存在する(図1)。
  • RdRpの保存領域を用いた系統解析では、V670株のL1 dsRNAはEndornavirus属とクレードを形成する(図2)。
  • 塩基サイズ、ゲノムの中の既知配列との相同領域及びその配置構成から、V670株のL1 dsRNAはEndornavirus属の1種であると結論し、Helicobacidium mompa endornavirus 1-670(HmEV1-670) と命名する。本属ウイルスが担子菌類から見つかった報告はこれが最初である。

成果の活用面・留意点

  • 明らかになったL1 dsRNAの配列は、様々な菌類からEndornavirus属ウイルスを探索する際の指標として利用できる。見いだされたウイルスはHmEV1-670と完全に同じ配列ではなくても、病原力を低下させる因子であることが期待される。
  • 植物で見出されたEndornavirus属ウイルスは、粒子構造を持たない裸のdsRNAの状態で存在していると報告されている。現在菌類ウイルスは一部のもので純化粒子を用いた感染実験が可能であることが示されているが、今後HmEV1-670の感染実験を行う場合には、HmEV1-670が植物で見出されたEndornavirus属ウイルスと同様に、粒子構造を持たないのか確認してからその後の検討を行う必要がある。

具体的データ

図1. 既知のEndornavirus属ウイルスと紫紋羽病菌V670株のL1 dsRNA (Helicobacidium mompa endornavirus 1-670) のゲノムサイズ及び構造の比較 最上部に塩基長を示す。ウイルス配列の模式図(塩基サイズの下4種)のうち両末端の細い線が非コード領域、細長い箱がコード領域、斜線部がヘリカーゼ、点描部がUGT、黒塗りがRdRpとの相同領域。矢印がニック部分。

図2. RdRp保存領域のアミノ酸配列を用いた近隣結合法による系統解析用いた配列は紫紋羽病菌V670株L1dsRNA (Helicobacidium mompa endornavirus 1-670)、既知のEndornavirus属(HvEV, LsEV, OEV, PEV1, VEV)、及び+ssRNAウイルス(CrTV, LCV, PMWaV1, TBSV, TMV)。1,000回の解析のうちブーツストラップ値500以上であったものは図中に示した。アウトグループはTBSV。

その他

  • 研究課題名:果樹の紋羽病等難防除病害抑制のための要素技術の開発
  • 課題ID:214-p
  • 予算区分:高度化事業
  • 研究期間:2003~2005年度
  • 研究担当者:大崎秀樹、中村仁、佐々木厚子、松本直幸(農環研)、吉田幸二
  • 発表論文等:Osaki et al. (2006) Virus Res. 118(1-2):143-149