幼虫期にカンキツグリーニング病原細菌を獲得したミカンキジラミは媒介力が強い

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要約

ミカンキジラミが幼虫期に獲得したカンキツグリーニング病原細菌は成虫体内で顕著に増殖し、高率に媒介される。成虫期に感染樹上で24時間吸汁したミカンキジラミは病原細菌を媒介する可能性が低い。

  • キーワード:ミカンキジラミ、カンキツグリーニング病原細菌、保毒虫、増殖、媒介
  • 担当:果樹研・カンキツグリーニング病研究チーム
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・病害虫
  • 分類:研究・普及

背景・ねらい

カンキツグリーニング病はミカンキジラミによって媒介されるが、虫体内での病原細菌の増殖は確認されておらず、保毒や媒介の様式についても分子生物学的手法に基づく研究が必要である。そこで、虫体内の病原細菌濃度を定量し、異なる発育段階で病原細菌を獲得したミカンキジラミにおける、細菌の保持と増殖、媒介の特性を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 虫体から抽出したDNA溶液中の病原細菌遺伝子およびミカンキジラミ遺伝子を対象とするリアルタイムPCR法によって、ミカンキジラミ個体内の病原細菌の濃度を、定量的かつ高精度に検出できる。
  • 羽化直前の発育段階である5齢幼虫期に感染樹上で24時間吸汁させたミカンキジラミを健全樹上に移し、羽化後20日間観察すると、高い保毒虫率(PCR陽性率)を維持する(図1A)。また、保毒虫体内の病原細菌濃度は羽化後10日目以降に有意に増大し、病原細菌の顕著な増殖が認められる(図2A)。加えて、この保毒虫は高率に病原細菌を媒介する(表1)。
  • 成虫期に感染樹上で24時間吸汁させたミカンキジラミを健全樹上に移し、20日間観察すると、保毒虫率は10日目以降50%程度まで低下し(図1B)、保毒虫体内の病原細菌濃度は有意に増大しない(図2B)。また、この条件では病原細菌を媒介する可能性が低い(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 虫体内の病原細菌濃度の定量技術によって、野外で発生するミカンキジラミについても、細菌濃度の量的調査が可能である。
  • 成虫が感染樹上に24時間以下の短時間滞在して病原細菌を保毒した場合は、たとえPCR陽性であっても媒介に関与する可能性は低い。一方、感染樹上で発育する幼虫は、羽化後に高い媒介能力を持つ可能性が高い。
  • 虫媒伝染による病害の分布拡大を効果的に防ぐためには、感染樹上の幼虫の防除が肝要である。
  • 今後、感染樹上で24時間以上の長時間吸汁したミカンキジラミについても、保毒虫率と病原細菌濃度の推移、そして媒介能力を解明する必要がある。

具体的データ

図1 5齢幼虫および成虫が感染樹上で吸汁した後の保毒虫率.

図2 5齢幼虫および成虫が感染樹上で吸汁した後の保毒虫の病原細菌濃度

表1 健全カンキツへの媒介試験結果

その他

  • 研究課題名:気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 課題ID:215-a.5
  • 予算区分:基盤研究費、交付金プロ(気候温暖化、温暖化適応)
  • 研究期間:2003~2008年度
  • 研究担当者:井上広光、大西純、伊藤隆男、冨村健太、宮田伸一、岩波徹、芦原亘
  • 発表論文等:Inoue et al. (2009) Ann. Appl. Biol. (DOI: 10.1111/j.1744-7348.2009.00317.x)