新規液体増量剤によるモモの溶液受粉における結実率の向上

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要約

モモの溶液受粉用の液体増量剤に、花粉管伸長を促進するペクチンメチルエステラーゼやポリガラクツロナーゼ、柱頭への花粉の付着量を増やすキサンタンガムを添加することによって、溶液受粉の結実率を向上させることができる。

  • キーワード:モモ、溶液受粉、花粉管伸長、結実
  • 担当:果樹研・果樹温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・栽培
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

モモの主要品種「川中島白桃」や「白桃」は雄性不稔性であることから、結実を確保するために人工受粉が行われているが、モモの開花期間は短く作業が集中することから、省力化が強く望まれている。キウイフルーツではショ糖を含む寒天液を用いた溶液受粉技術が実用化され、慣行の梵天による受粉に比べて作業時間が半分になることが報告されていることから、モモにおいても溶液受粉技術の開発が望まれている。しかし、これまでの溶液受粉では、花粉管伸長や柱頭への花粉付着量が不十分であったため、モモの溶液受粉に適した液体増量剤の開発を行った。

成果の内容・特徴

  • 液体増量剤に細胞壁代謝酵素のペクチンメチルエステラーゼ(PME)(シグマ・アルドリッチ)を0.1 mg/L添加することによって、花粉管伸長は有意に促進される。花粉発芽率については、10 mg/Lの添加で阻害されるが、それ以外の濃度での影響は認められない(図1 A、B)。
  • 液体増量剤に別の細胞壁代謝酵素のポリガラクツロナーゼ(PG)(シグマ・アルドリッチ)を添加することによって、何れの濃度においても花粉管伸長は促進され、0.1 mg/L添加することによって最も促進される。花粉発芽率については、添加の影響は認められない(図1 C、D)。
  • 液体増量剤に増粘剤のキサンタンガム(XG)0.04%(w/v)を添加することによりキウイフルーツで実用化されている寒天0.1%(w/v)に比べて柱頭への花粉の付着量が多くなる(データ略)。
  • XG0.04%(w/v)、ショ糖10%(w/v)、PME 0.1mg/LまたはPG 0.1mg/Lを含む新規液体増量剤を用いて、花粉濃度0.5%(w/v)で溶液受粉することによって、梵天による慣行受粉よりは低いものの約38%まで結実率が向上する(表1)。
  • 新規液体増量剤による結実率の向上は、PMEまたはPGによる花粉管伸長の促進とXGの添加による花粉付着量の増加の2つの効果によるものと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • モモ「川中島白桃」において結実率の向上は認められたものの、慣行の梵天受粉と比較してまだ十分な結実率が得られていない。今後、液体増量剤の組成について更に検討し結実率を向上させるための改良を行うことが必要である。
  • 得られた結果は試作中の電動噴霧器によるものであり、ハンドスプレー等で新規増粘剤を用いた溶液受粉を行う際、霧状に散布出来ない場合があることから注意が必要である。
  • ペクチンメチルエステラーゼおよびポリガラクツロナーゼの使用にあたっては、試薬により、酵素活性等が異なる場合があることから、注意が必要である。

具体的データ

図1 液体増量剤へのペクチンメチルエステラーゼ(PME)およびポリガラクツロナーゼ(PG)の添加濃度の違いがモモ「あかつき」の花粉発芽率(A、C)および花粉管伸長量(B、D)に及ぼす影響 液体増量剤に懸濁した花粉の2時間後の花粉発芽率および花粉管伸長量異なるアルファベット間には5%の危険率で有意差有り(Tukey-Kramer Test)(図中の縦線は標準誤差を示すn=3)

表1 液体増量剤の組成の違いがモモ「川中島白桃」の結実および果実品質に及ぼす影響

その他

  • 研究課題名:気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 課題ID:215-a.4
  • 予算区分:高度化(溶液受粉)
  • 研究期間:2004~2006年度
  • 研究担当者:阪本大輔、羽山裕子、伊東明子、樫村芳記、森口卓哉、中村ゆり
  • 発表論文等:阪本ら (2008) 園学研、7(4):525-530