スペルミジン合成酵素遺伝子導入セイヨウナシにおける高い抗酸化活性能

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

スペルミジン合成酵素遺伝子を導入したセイヨウナシでは、塩ストレスまたは浸透圧ストレスを与えると、野生型に比べてスペルミジン含有量が一層増加する。また、抗酸化酵素活性や抗酸化物質の濃度が上昇し、ストレス下での成長抑制が改善される。

  • キーワード:環境ストレス耐性、スペルミジン、セイヨウナシ、遺伝子組換え体
  • 担当:果樹研・果樹温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・栽培
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

永年作物である果樹は、長期にわたり植栽地の環境の影響を受け続ける。そのため、地球温暖化にともなう不良環境条件下においても生存でき、持続的な生産が可能となる複合環境ストレス耐性を有した果樹の作出が望まれている。一方、ここ数年の研究から環境ストレス耐性におけるポリアミンの機能が明らかとなりつつある。ポリアミン生合成系酵素遺伝子を導入したシロイヌナズナでは、乾燥や塩ストレスを含む複合環境ストレスに強くなっていることが示されている。しかし、その機構に関しては知見がほとんど無いのが現状である。そこで、ポリアミン生合成系酵素遺伝子の一つであるスペルミジン合成酵素遺伝子(SPDS)を導入して、塩ストレスと浸透圧ストレスに対して強くなっているセイヨウナシ組換え体におけるスペルミジン(Spd)含量と抗酸化活性能の関係を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • SPDS導入セイヨウナシ組換え体(#32)のSpd含量は野生型(WT)よりも高いが、塩ストレス(150 mM NaCl)または浸透圧ストレス(300 mMマンニトール)を与えると、特に、処理後3日後のSpd含有量がWTに比べて一層増加する(図1)。
  • スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX)、モノデヒドロアスコルビン酸還元酵素(MDHAR)、グルタチオン還元酵素(GR)などの抗酸化酵素活性については、ストレスのない時には#32とWTとの間には有意な差はない。塩ストレスまたは浸透圧ストレスを与えた場合には、#32ではWTに比べてこれらの活性が高くなる傾向がみられる(図2)。
  • 塩ストレスまたは浸透圧ストレスのいずれでも、#32ではWTよりも還元型アスコルビン酸やプロリンなどの抗酸化物質の濃度が高くなる(データ省略)。さらに、過酸化水素の量は、#32ではWTより低くなり、膜の障害の指標であるマロンデアルデヒドの値も低くなる(データ省略)
  • 塩ストレス下で培養した時の茎の伸長量は、#32ではWTに比べて減少程度が少ない。同様な傾向が浸透圧ストレス処理でもみられる(図3)。
  • 以上のことから、#32では高くなったSpdが抗酸化酵素活性や抗酸化物質の合成を誘導し、生体内の酸化還元状態を良好に保つことで、ストレス耐性が獲得されたと推察された。

成果の活用面・留意点

  • 結果は全て培養瓶内のシュートを用いて得られたものであるため、今後、発根させて鉢上げを行った樹においてもストレス耐性の程度を確認する必要がある。

具体的データ

図1 野生型(WT)と組換え体(#32)における塩またはマンニトール処理前(B)、処理後3日(3)および7日後(7)のSpd含量

図2 塩またはマンニトール処理前(B)、処理後3日(3)および7日後(7)の野生型(WT)と組換え体(#32)における抗酸化酵素活性の変化

図3 野生型(WT)と組換え体(#32)における塩またはマンニトール処理後7日(7)および15日後(15)の茎伸長量の変化白:ストレス無、黒:ストレス

その他

  • 研究課題名:気候温暖化等環境変動に対応した農業生産管理技術の開発
  • 課題ID:215-a.4
  • 予算区分:科研費
  • 研究期間:2005~2007年度
  • 研究担当者:森口卓哉、伴雄介、井上博道、松田成美(山形県農総研セ)
  • 発表論文等:He et al. (2008) Phytochemistry 69:2133-2141