クリ害虫の微生物防除資材としてBeauveria bassiana HF338株は有望である

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

クリシギゾウムシ幼虫に対する高い病原力を指標として選抜した昆虫病原糸状菌Beauveria bassiana HF338株は、クリシギゾウムシ成虫およびクリミガ幼虫に対しても強い病原力を有し生物防除資材として有望である。

  • キーワード:クリ、昆虫病原糸状菌、微生物防除、クリシギゾウムシ、クリミガ
  • 担当:果樹研・果樹害虫研究チーム
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・病害虫
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

クリシギゾウムシとクリミガはクリの重要害虫であり、従来、本害虫の防除は収穫後の果実を臭化メチルでくん蒸することで対応されてきた。しかしながら臭化メチルはオゾン層の破壊物質として使用が制限され、クリでは不可欠用途としての利用が認められているのが現状で、臭化メチルは全廃の方向にあり、代替防除技術の開発が急務である。収穫後の防除技術としてヨウ化メチル等を利用した代替技術が検討されているが、栽培期間中における防除は薬剤散布しか無く、近年の環境や食の安全・安心に対する国民意識の高まりに応えられていない。そのため、環境保全型の農業技術に資する昆虫病原糸状菌を利用したクリ害虫防除技術の開発をめざす。

成果の内容・特徴

  • 日本各地の野外死亡虫から分離・培養した昆虫病原糸状菌、Beauveria 属77菌株をクリシギゾウムシ幼虫に処理したとき、B. bassiana HF338株は最も強い病原力を示し、1×106 分生子/幼虫の条件では7日以内に死亡率はほぼ100%に達する。
  • B. bassiana HF338株の病原力は、クリシギゾウムシ幼虫を2ml容カップに入れ、分生子懸濁液と接触させたとき、半数致死量(LD50)は2,700 分生子/幼虫で、高濃度の分生子懸濁液(1×106 分生子/幼虫)を用いた場合の半数致死時間(LT50)は4.5日であり、強い(表1)。
  • B. bassiana HF338株はクリシギゾウムシ幼虫に低い温度(15°C)で感染試験を行っても、LT50値は長くなるが、LD50値には影響せず、強い病原力を維持する(表1)。
  • クリシギゾウムシ成虫をB. bassiana HF338株分生子懸濁液に浸漬する方法で接種したときの半数致死濃度(LC50)は2.6×105 分生子/mlであり(表2)、1×108 分生子/mlで成虫を処理したとき、死亡率は10日以内にほぼ100%に達する。
  • クリミガ幼虫をB. bassiana HF338株の分生子懸濁液に浸漬する方法で接種したときのLD50値は3.5×105 分生子/mlであり、クリシギゾウムシ成虫に対する病原力と同等の病原力である(表3)。1×108 分生子/mlでクリミガ幼虫を処理したときにも10日以内にほぼ100%の死亡率に達する。

成果の活用面・留意点

  • B. bassiana HF338株はクリシギゾウムシとクリミガ幼虫の防除に利用できる可能性があるが、屋外での施用方法を検討する必要がある。
  • B. bassiana HF338株は15°Cの低温でも、クリシギゾウムシ幼虫に強い病原力を維持することから、越冬中の幼虫に対する防除効果が期待できる。

具体的データ

表1 Beauveria bassiana HF338株のクリシギゾウムシ幼虫に対する病原力

表2 Beauveria bassiana HF338株のクリシギゾウムシ成虫に対する病原力

表3 Beauveria bassiana HF338株のクリミガ幼虫に対する病原力

その他

  • 研究課題名:天敵等を用いた果樹害虫の制御・管理技術の開発
  • 課題ID:214-n
  • 予算区分:基盤研究費
  • 研究期間:2001~2008年度
  • 研究担当者:井原史雄、外山昌敏、檜垣守男、三代浩二、栁沼勝彦
  • 発表論文等:Ihara et al. (2009) Appl. Entomol. Zool. 44(1):127-132