ネギアザミウマの種内系統は遺伝子レベルで識別できる

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要約

ネギアザミウマには17の新規のミトコンドリアCOIハプロタイプが存在する。カキへの寄生や殺虫剤抵抗性発達で問題となる系統は2タイプに分類され、遺伝子レベルで判別できる。それら問題系統は海外から侵入した可能性も示唆される。

  • キーワード:ネギアザミウマ、種内系統、分子系統解析、殺虫剤抵抗性
  • 担当:果樹研・果樹害虫研究チーム
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・病害虫
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

近年、国内においてネギアザミウマは、従来寄主植物ではなかったカキへの加害、カンキツなどでの被害の増大、さらには各種殺虫剤に対する高度な抵抗性発達などが問題となっている。それらの形質を有する系統は形態では識別できず、適切な防除の妨げとなっている。そこで、国内外から採集したネギアザミウマ系統のミトコンドリアCOI遺伝子における遺伝的多型を解析し、寄主範囲拡大や殺虫剤抵抗性発達が問題となっている系統の遺伝的特徴を明らかにすることにより、形態によらない識別を可能にする。

成果の内容・特徴

  • 海外6カ国および国内18地点のカキ、カンキツを含む9科15種の植物から採集された118個体のネギアザミウマは、合計17のCOIハプロタイプに分類される(図1)。
  • 国内で検出されているハプロタイプは図1に下線を引いた7種類である。
  • 主にネギ属から採集されたハプロタイプ14は国内で最も広範に分布しているタイプであり(図2)、日本に従来から分布する最も一般的なハプロタイプであると推測される。
  • ネギ属、カキ、カンキツなど多岐にわたる作物から採集されたハプロタイプ15および16は、カキにも寄生でき、殺虫剤抵抗性の発達が問題となっている系統であると考えられるが、系統樹におけるそれらの分岐は支持されず、系統関係は不明である。
  • ハプロタイプ15および16は海外のサンプルからも検出されており(図2)、海外から侵入した系統である可能性も示唆される。
  • 図1の系統樹はネギアザミウマが3つのグループ(A、BおよびC)から成ることを示している。各グループを構成するタイプの性質から、グループAは雌雄両性で増殖する産雄単為生殖タイプ、グループBは産雌単為生殖タイプで構成されることが推測される。一方、グループCに属するタイプはタバコ寄生性の産雄単為生殖タイプと推測されるが、国内のサンプルからは検出されていない。

成果の活用面・留意点

  • 形態では識別できないネギアザミウマの種内多型を遺伝子レベルで検出できるので、寄主範囲拡大や殺虫剤抵抗性発達が問題となっている系統の圃場内外における分布状況を正確に把握し、散布薬剤の選定などの防除対策に役立てることができる。
  • ハプロタイプ分けおよび系統関係の推定は、ミトコンドリアCOI遺伝子塩基配列のみによるものであり、核遺伝子を用いた検証が必要である。

具体的データ

図1 ネギアザミウマCOI遺伝子塩基配列(394bp)に基づくNJ系統樹各枝の数値はブートストラップ値(1000回)を示す。図中AYおよびAFで始まる英数字はそれぞれ、国外で既登録のネギアザミウマおよび外群とした同属近縁他種のデータベース登録番号を表す

図2 COIハプロタイプ14、15および16の地理的分布

その他

  • 研究課題名:天敵等を用いた果樹害虫の制御・管理技術の開発
  • 課題ID:214-n
  • 予算区分:基盤研究費
  • 研究期間:2004~2006年度
  • 研究担当者:土田聡
  • 発表論文等:Toda and Murai (2007) Appl. Entomol. Zool. 42(2):309-316