土着天敵ハダニアザミウマの定着性はハダニの立体網の存在により促進される

※アーカイブの成果情報は、発表されてから年数が経っており、情報が古くなっております。
同一分野の研究については、なるべく新しい情報を検索ください。

要約

ハダニ類の有力な土着天敵のうち、ハダニアザミウマは、オウトウハダニ、ナミハダニなどの造網性ハダニ種に対して定着性が高い。一方、ヒメハダニカブリケシハネカクシは、造網性の有無にかかわらずハダニ高密度時に定着性が高い。

  • キーワード:ハダニ、ハダニアザミウマ、ヒメハダニカブリケシハネカクシ、天敵、造網性
  • 担当:果樹研・果樹害虫研究チーム
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・病害虫
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

ハダニ類は様々な果樹における難防除害虫として知られ、1樹種に生態的・生理的特徴の異なる複数の種類が同時に発生して被害が問題となる例も多い。 捕食性昆虫類であるハダニアザミウマやヒメハダニカブリケシハネカクシは、広くハダニ類を捕食する有力な土着天敵として、その利用が期待されているが、ハダニ各種に対する密度抑制能力の違いは明らかでない。そこで、密度抑制能力を評価する一環として、ハダニ主要種が寄生した葉上での両種の滞在時間および捕食・産卵状況といった定着性を比較する。

成果の内容・特徴

  • ハダニアザミウマ雌成虫は、オウトウハダニもしくはナミハダニが産卵したナシ葉上では、ハダニ卵密度が低い段階から滞在時間が長く、葉上のハダニ卵をよく捕食し、かつ産卵数が多い。さらに、ハダニ卵密度が高くなると、ナシ葉上への定着性が大きく向上する(図1)。一方、クワオオハダニが産卵したナシ葉上では、定着性が悪く、しかもハダニ卵密度が高くなっても定着性はあまり向上しない(図1)。
  • オウトウハダニやナミハダニは葉上に立体的な網を構築するのに対し、クワオオハダニは網を構築しない。クワオオハダニに産卵させた後にオウトウハダニ雌成虫に網だけを構築させ、ハダニアザミウマ雌成虫を導入すると、ナシ葉上での滞在時間が長くなり、ハダニ卵捕食数・産卵数が多くなる(図2)。すなわち、ハダニアザミウマ雌成虫のハダニ産卵葉上への定着性は、ハダニの構築した網の存在に大きく影響される。
  • ヒメハダニカブリケシハネカクシ雌成虫では、産卵したハダニ種によるナシ葉上での滞在時間、ハダニ卵捕食数、産卵数の違いが小さい(図1)。一方、ハダニ卵密度が高くなると、滞在時間、ハダニ卵捕食数および産卵数が大きく向上する(図1)。すなわち、本種雌成虫のハダニ寄生葉上への定着性は、ハダニ卵密度に大きく影響される。

成果の活用面・留意点

  • ハダニアザミウマは、造網性をもつハダニ種に対して天敵として有望である。一方、ヒメハダニカブリケシハネカクシは、捕食量が大きいことから主に多発したハダニの密度抑制に有望である。
  • 果樹の主要ハダニ種のうち、カンザワハダニなどTetranychus属の種は造網性をもつ。一方、ミカンハダニ、リンゴハダニは、クワオオハダニと同じPanonychus属で非造網性である。
  • Panonychus属ハダニに対しては、捕食性昆虫類の定着性を向上させる手法の開発、もしくは低密度時から有効な天敵種の探索が必要である。

具体的データ

図1 各種ハダニ卵を寄生したナシ葉上での捕食性昆虫2種の雌成虫の滞在時間(A)、捕食量(B)、および産卵数(C)(25°C)

図2 ハダニアザミウマ雌成虫のハダニ寄生ナシ葉上への定着性に及ぼすオウトウハダニの網の影響(25°C)

その他

  • 研究課題名:天敵等を用いた果樹害虫の制御・管理技術の開発
  • 課題ID:214-n
  • 予算区分:委託プロ(生物機能)
  • 研究期間:2004年~2008年
  • 研究担当者:岸本英成、足立礎
  • 発表論文等:Kishimoto and Adachi (2008) Ent. Exp. Appl. 128: 294-302