早生、良食味で結実性の良いカンキツ新品種「津之望」(つののぞみ)

要約

カンキツ新品種「津之望」は「清見」に「アンコール」を交雑して育成した、年内に成熟する早生のミカンである。露地栽培が可能で、浮皮がなく、香りと食味に優れ、結実性が良く隔年結果性の低い品種である。

  • キーワード:カンキツ、新品種、早生、良食味
  • 担当:果樹研・カンキツ研究チーム
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・育種
  • 分類:技術・普及

背景・ねらい

年内に収穫されるカンキツはウンシュウミカンがほとんどであるが、ウンシュウミカンは園地条件等により低糖度の果実が生産されやすい。そのため、年内に成熟し、高糖度で食味が良く商品性の高い品種の育成が求められている。そこで、雄性不稔による無核性で良食味の「清見」を種子親に、高糖度で良食味の「アンコール」を花粉親にして交雑を行い、早生で、高糖度、良食味で、結実性に優れたミカンタイプの品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 1974年に農林省果樹試験場口之津支場(現:農研機構果樹研究所カンキツ研究口之津拠点)において「清見」に「アンコール」を交雑して育成した品種である。2001年4月から系統名カンキツ口之津37号としてカンキツ第9回系統適応性・特性検定試験に供試して検討し、2009年(平成22年)8月の同試験成績検討会において新品種候補とした。2010年7月12日に品種登録出願し、2011年5月24日に「津之望」(つののぞみ)として品種登録された。
  • 樹勢は中程度、樹姿は直立性と開張性の中間で、枝梢は太く、長く密生する。そうか病には強く、かいよう病に対しては中程度の抵抗性がある。また、ステムピッティングの発生はなく、ステムピッティングによる樹勢の低下はみとめられない(表1)。
  • 果実は平均190g程度、果形は扁球形である。果皮は橙色で、厚さは約2.4mmで薄くて軟らかく、剥皮は比較的容易である。また浮皮はほとんど発生しない。「アンコール」に類似した芳香がある。果肉は濃橙色で、肉質は軟らかくて果汁量は多く、じょうのう膜は薄くて軟らかい。露地栽培が可能であり、成熟期は12月中下旬となる。露地栽培における果汁の糖度は12%程度と比較的高く、クエン酸含量は0.74%となり、食味が良い。種子数は比較的少ない。結実性は良好で、隔年結果性が低く、連年安定生産が容易である(表1、図1)。

成果の活用面・留意点

  • 年内に成熟するため、わが国のほとんどのカンキツ栽培地帯に適する。
  • 小さな不完全種子が多く入りやすく、また花粉の多い品種を混植すると、種子数が増加する傾向があるので、栽培条件には留意が必要である。
  • 樹勢は中程度であるが、耕土の浅い地域を避け、適切な肥培管理と適正着果等に留意して樹勢の維持を図る。
  • 苗木は2011年秋期より販売される予定である。

具体的データ

「津之望」の樹性および果実特性 (果樹研究所カンキツ研究口之津拠点 2009年)

「津之望」の果実

その他

  • 研究課題名:高収益な果実生産を可能とする高品質品種の育成と省力・安定生産技術の開発
  • 中課題整理番号:213e.3
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:1974~2009年度
  • 研究担当者:吉岡照高、深町浩、今井篤、野中圭介、松本亮司、國賀武、奥代直巳、山本雅史、高原利雄、
                       石内傳治、生山巖、三谷宣仁、稗圃直史、吉永勝一、内原茂、山田彬雄、池宮秀和、村田広野、
                       浅田謙介
  • 発表論文等:奥代ら「津之望」品種登録 2011年5月24日(第20788号)