合成ピレスロイド抵抗性ネギアザミウマを識別する遺伝子診断法
要約
合成ピレスロイド抵抗性ネギアザミウマには薬剤の作用点であるナトリウムチャネルをコードする遺伝子に3種類の点突然変異が存在する。2タイプに分類される抵抗性系統はともに、点突然変異部位を標的にした遺伝子診断法により識別できる。
- キーワード:ネギアザミウマ、ナトリウムチャネル、ピレスロイド抵抗性、遺伝子診断
- 担当:果樹研・果樹害虫研究チーム
- 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 区分:果樹・病害虫
- 分類:研究・普及
背景・ねらい
近年、果樹・野菜類の重要害虫であるネギアザミウマにおいて、各種殺虫剤、特に合成ピレスロイド剤に対する高度な抵抗性発達が問題となっている。しかし、低密度でも大きな被害の出るカキ園等では加害時期初期の寄生密度は極めて低いため、加害前に個体群の薬剤感受性レベルを把握することが困難であり、適切な薬剤が選択できない。合成ピレスロイド剤抵抗性発達の一要因として、作用点であるナトリウムチャネルの変異が挙げられる。そこで、同遺伝子を解析し、抵抗性個体をモニタリングするための遺伝子診断法を開発する。
成果の内容・特徴
- ネギアザミウマのナトリウムチャネル遺伝子は塩基配列により少なくとも4通りのタイプ(I~IV)に分類できる(表1)。
- 感受性系統のナトリウムチャネル(タイプIおよびII)にはアミノ酸置換を引き起こす突然変異が生じていない(表1)。
- 高レベルの抵抗性に関与すると考えられるタイプIVは2つの突然変異(Met→ThrおよびLeu→Phe)を、中程度の抵抗性に関与すると考えられるタイプIIIは1つの突然変異(Thr→Ile)を有している(表1)。
- タイプIIIは突然変異部位を含むナトリウムチャネル遺伝子の643bpの領域をプライマーTtkdrF3(5'-CATCTTCGATTTCATTATAGTGGCG-3')およびTtkdrR1(5'-TTGGACAGGAGCAAGGCAAGGAA-3')を用いてPCR増幅し、制限酵素Sau3AIで消化するPCR-RFLP法により遺伝子診断できる。(図1A)。
- タイプIVはTtkdrF3、TtkdrR3(5'-TAGGCATTTCGCCACCAGGAAAT-3')の両プライマーに、突然変異部分を末端に持つプライマーTtkdrMF3(5'-CAACCTGCTCATTTCTATCGC-3')を加えた3種プライマーによるマルチプレックスPCR法で遺伝子診断できる(図1B)。
成果の活用面・留意点
- 生物検定法に比べて、死亡虫でも高精度で殺虫剤抵抗性判定ができるため、発生地で採集した個体の薬剤感受性を速やかに判別することができる。
- 粘着トラップで誘殺された個体を調査することにより、発生初期に園内における抵抗性個体頻度がモニタリングでき、その後の防除対策が立てやすくなる。
- 本手法により薬剤抵抗性に対応した有効薬剤を選択することで、効率的な防除が可能になる。
具体的データ


その他
- 研究課題名:天敵等を用いた果樹害虫の制御・管理技術の開発
- 中課題整理番号:214n
- 予算区分:基盤
- 研究期間:2006~2010年度
- 研究担当者:土`田 聡、森下正彦(和歌山果樹試)、望月雅俊
- 発表論文等:Toda S. and M. Morishita (2009) J. Econ. Entomol. 102(6): 2296-2300