ブドウに感染する新種のウイルスGrapevine virus E
要約
国内で栽培されているブドウ品種から新種のウイルスGrapevine virus E(GVE)を見出し、クワコナカイガラムシによって伝搬されることを示した。特異的プライマーペアを用いた遺伝子診断法により、本ウイルスを安定して検出できる。
- キーワード:ブドウ、ウイルス、Vitivirus属、Grapevine virus E、クワコナカイガラムシ
- 担当:果樹研・果樹病害研究チーム、果樹害虫研究チーム
- 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 区分:果樹・病害虫
- 分類:研究・普及
背景・ねらい
国内で栽培されている主要品種(巨峰やピオーネ等)に発生しているステムピッティングやステムグルービングなどのルゴースウッド(RW)と呼ばれる症状の原因究明に向け、ウイルス診断を実施してきた。その過程で新種と思われるウイルス様配列(TvAQ7およびTvP15)が検出された。そこで、RW症状や他のウイルス病様症状の原因究明に資することを目的として本ウイルスの性状を解明するとともに、遺伝子診断法を開発する。
成果の内容・特徴
- 新ウイルス候補株TvAQ7のゲノムは、約7.6kb (5´末端未決定)(accession No. AB432910)である。TvP15については、3´末端側の約3.2kb(accession No. AB432911)を決定している。
- TvAQ7のゲノム構造、ORFの塩基配列およびアミノ酸配列は、既知Vitivirus属ウイルスのものと比較的高い相同性を有する。外被タンパク質のアミノ酸配列に基づいた系統解析では、TvAQ7およびTvP15はVitivirus属と同じクラスターを形成する(図1)。
- 特異的プライマーペア(GVE-up1:CAGGTTAAGCAGGCCATAAG、GVE-do1:TTGACTATTAGTAGGGTCAATC)を用いたRT-PCRによって、TvQ7およびTvP15を安定して検出することができる(図2)。
- TvAQ7およびTvP15は国内に生息するクワコナカイガラムシによって伝搬される(表2)。
成果の活用面・留意点
- 国際ウイルス分類委員会が示す分類基準によれば、TvAQ7及びTvP15はVitivirus 属の新種と考えるのが妥当であり、本ウイルスをGrapevine virus E(GVE)と命名することを提案している。
- GVEを検出する特異的遺伝子診断法は、母樹検定等に利用して無毒苗木の供給に役立てることができる。
- GVEの感染実態、宿主範囲及び感染による症状、被害は不明であり、今後の調査が必要である。
- 海外ではワイン用品種のRW症状にVitivirus属のウイルスが関与しているとの研究結果が数多く報告されており、GVEの発見はRW症状の全貌解明に貢献する。
具体的データ



その他
- 研究課題名:果樹の紋羽病等難防除病害抑制のための要素技術の開発
- 中課題整理番号:214p
- 予算区分:基盤
- 研究期間:2006~2008年度
- 研究担当者:中畝良二、土`田聡、望月雅俊、中野正明
- 発表論文等:Nakaune et al.(2008) Arch.Virol. 153:1827-1832