リンゴのわい性台木は根の師部が厚く、蒸散流量が抑制されている

要約

リンゴのわい性台木では、蒸散に伴う根からの水の吸収および幹内の水の流れ(蒸散流量、Sap flow)がわい化させる能力に応じて抑制されており、その蒸散流量の抑制は、根の師部の厚さと相関がある。

  • キーワード:リンゴ、わい性台木、蒸散流量、Sap flow、師部、木部
  • 担当:果樹研・リンゴ研究チーム
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 区分:果樹・育種
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

土壌病害に抵抗性を有するリンゴわい性台木の育成が求められている。病害抵抗性の交雑実生の中から、わい性台木としての能力を備える個体を短期間で効率的に選抜するためには、わい化機構と密接に関係する生理・生態および形態的特性から、有効な選抜指標を開発する必要がある。わい化は、新梢の伸長が抑制される現象であり、新梢の伸長は樹体内の水分状態に大きく依存している。そこで、わい化程度の異なるいくつかの台木品種を用い、樹体内の水の動態を測定してわい化能力との関係を明らかにし、水の動態と関係する要因からわい性台木の選抜指標を開発する。

成果の内容・特徴

  • リンゴ樹の蒸散に伴う根からの水の吸収および幹内の水の流れ(蒸散流量、Sap flow)は一日を通して大きく変動し、またその変動は日によって異なる(図1A)。しかし、その変動は日射量に依存していることから、回帰直線を比較することで、蒸散流量の品種間差を明らかにすることができる(図1B)。
  • 葉面積および根量を揃えて比較した場合、わい化させる能力が高い台木品種ほど蒸散流量は少ない(図2A)。品種による差は、気温が高いほど、また日射量が多いほど大きくなる。
  • 幹、根の木部の水の通りやすさ(透水性)と蒸散流量とに相関はなく、樹体内の透水性とわい化させる能力とは無関係である(図2B-C)。
  • わい化させる能力が高い品種ほど根の断面における師部の割合が高く(師部が厚く)(図2D)、根の断面の構造は、わい化させる能力の高い個体を選抜するための有用な指標となる可能性がある。

成果の活用面・留意点

  • 蒸散流量の品種間差は、サップフローメーターを用い、人工気象室内で気温および地温を一定にし、十分灌水したポット苗を用いて連続5日程度測定することで、高い精度で推定できる。
  • 蒸散流量を比較する場合、2年生程度までの若いポット苗であれば蒸散流量に及ぼす葉面積の影響は無視できる。ただし、土壌環境に大きな違いが生じないようにポットの容積はそろえる必要がある。
  • 根の断面における師部の割合は根が太くなるほど小さくなるため、わい性台木の選抜指標とする場合には、測定する根の太さは直径1.5~2.0 mmの細い部位がよい。

具体的データ

蒸散流量と日射量との関係

わい化能力の異なるリンゴ台木5品種における (A)気温30°C、日射量1.7MJ/m2における葉面積 0.3m2、根量55gのポット苗の蒸散流量 (B-C)切り出した幹および根の透水性 (C)根(太さ1.5~2mm)の断面に占める師部の割合

その他

  • 研究課題名:高収益な果樹生産を可能とする高品質品種の育成と省力・安定生産技術の開発
  • 課題ID:213e.4
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:岩波 宏、土師 岳、森谷茂樹、岡田和馬、阿部和幸
  • 発表論文等:Iwanami et al. (2009) J. Hort. Sci. Biotechnol.84:632-638
                       Iwanami et al. (2011) J. Hort. Sci. Biotechnol.86:241-244