温州萎縮ウイルス感染樹からの無毒化個体作成に有効な抗ウイルス剤
要約
簡易茎頂接ぎ木法による温州萎縮ウイルスの無毒化において、ウイルス感染樹の伸長中の芽に週3回1000ppmの抗ウイルス剤foscarnetを塗布すると、無毒化個体の獲得率が高まる。
- キーワード:ウンシュウミカン、温州萎縮ウイルス、ウイルス無毒化、抗ウイルス剤
- 担当:果樹研・カンキツ研究チーム
- 連絡先:電話029-838-6453
- 区分:果樹・育種
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
カンキツのウイルス無毒化には、簡易茎頂接ぎ木法がよく用いられる。この方法は、既存の方法の中で最も簡易であるが、実体顕微鏡下での繊細な作業を必要とするため成功率は高くない。そこで、ウイルス無毒化の効率を上げるために、近年実用化されたヒト用抗ウイルス剤について、温州萎縮ウイルス(SDV; Satsuma dwarf virus)に対する効果を評価する。
成果の内容・特徴
- SDV(系統SDV-S-58)に感染したウンシュウミカンを材料とし、人工気象室で熱処理(6:00~18:00:35 °C、18:00~6:00:30 °C)を行いながら、伸長中の芽に脱脂綿を用いて抗ウイルス剤foscarnet(1000ppm)を2、3日置きに合計およそ3~5回塗布する。2~4cmに伸長した芽の茎頂を、簡易茎頂接ぎ木法によりカラタチに接ぎ木すると、無処理区に対し有意に高い率でウイルス無毒化個体が得られる(図1、2)。
- 抗ウイルス剤rivabirin(100ppm)処理による無毒化個体の獲得率については、無処理区と比較して有意差が認められない(図2)。
成果の活用面・留意点
- SDV-S-58以外のSDV系統および他のカンキツウイルスに対する効果は不明である。
- foscarnet の塗布にかかる費用は、1回あたり約1円である。
- foscarnetは、ウイルスのDNA合成酵素およびRNA合成酵素を阻害する作用をもつヒト用の抗ウイルス剤である。
具体的データ


その他
- 研究課題名:高収益な果実生産を可能とする高品質品種の育成と省力・安定生産技術の開発
- 課題ID:213e.3
- 予算区分:基盤
- 研究期間:2008年~2010年度
- 研究担当者:太田 智、國賀 武、西川芙美恵、山崎安津、遠藤朋子、岩波 徹、吉岡照高
- 発表論文等:Ohta et al. (2011) J. Japan. Soc. Hort. Sci. 80 (2): 145-149