ミツバカイドウに認められる腐らん病抵抗性と育種素材としての有用性

要約

リンゴ腐らん病菌液を点滴接種して病斑長を測定することでリンゴ属植物の抵抗性を評価すると、ミツバカイドウの4系統は強い抵抗性を示す。ミツバカイドウ「サナシ63」、「早成サナシ1」とリンゴ品種との種間交雑は腐らん病抵抗性個体の獲得に有効である。

  • キーワード:リンゴ、腐らん病、ミツバカイドウ、抵抗性、種間交雑
  • 担当:果樹研・リンゴ研究チーム
  • 代表連絡先:電話029-838-6453
  • 区分:果樹・育種
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

リンゴ腐らん病は殺菌剤による防除が困難な病害であり、本病を回避する有効な手段として抵抗性品種の育成・利用が考えられる。腐らん病抵抗性の栽培品種がない現状では、まず本病に抵抗性を示すリンゴ属植物の探索と、栽培品種への抵抗性の導入が必要であり、実用的な抵抗性品種を効率的に育成するためには抵抗性に関する遺伝情報の蓄積が必要となる。そこで、リンゴ属遺伝資源の中から抵抗性素材を探索するとともに、抵抗性の遺伝様式を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 腐らん病菌(菌株:AVC-12)懸濁液の点滴接種法により抵抗性を評価すると、リンゴ属植物の中で、Malus sieboldii(ミツバカイドウ)の4系統は「ふじ」よりも病斑長が短く、本病に対して強い抵抗性を示す(表1)。
  • リンゴ栽培品種間の交雑による17家系の交雑実生個体群(集団1)を供試して近親交配と腐らん病抵抗性との関連性を解析すると、近交係数0~0.25の範囲での近親交配は抵抗性に影響を及ぼさない(表2)。
  • 栽培品種とミツバカイドウとの種間交雑による6家系の個体群(集団2)と集団1の個体群とを込みにして腐らん病抵抗性に及ぼす種間交雑の効果を解析すると、栽培品種間の種内交雑と比較して種間交雑は腐らん病抵抗性について有意な効果が認められ、種間交雑による分散が全分散に占める割合は5%程度と推定される(表2)。これは栽培品種間の交雑よりもミツバカイドウを片親とする種間交雑を行う方が、腐らん病抵抗性個体を獲得する上で効果的であることを示す。
  • ミツバカイドウの3系統とリンゴ栽培品種「ふじ」、「スターキングデリシャス」など16品種を親とする交雑実生集団の腐らん病抵抗性を評価すると、後代実生の抵抗性に及ぼす親の効果(一般組合せ能力)は大きく、両親の交互作用(特殊組合せ能力)が及ぼす影響は小さい(表3)。これは両親の平均的な抵抗性程度によって後代実生の平均的な抵抗性程度が概ね決まることを示す。
  • ミツバカイドウの3系統を含むリンゴ16品種の腐らん病罹病性に関する表現型値と育種価との間には有意な正の相関関係が認められ、本病に強い抵抗性を示す「サナシ63」と「早成サナシ1」の育種価は栽培品種より小さい(図1)。これは後代実生個体で期待される平均的な腐らん病罹病性程度が低く、腐らん病抵抗性品種育成のための育種素材として利用できることを示す。

成果の活用面・留意点

  • 腐らん病罹病性に関する表現型値と育種価との間には正の相関関係が認められるものの、「Mo 15」のように腐らん病に対して強い抵抗性を示すにもかかわらず、親として使用したときに得られる後代実生の抵抗性程度が期待されるほど高くない場合もある。

具体的データ

腐らん病菌(菌株:AVC-12)の接種により各種リンゴ属植物の休眠枝上に形成された病斑長の差異

リンゴ品種間交雑による17家系(集団1)とM . sieboldii とリンゴ品種との 種間交雑由来の6家系(集団2)を用いて2年間評価した腐らん病抵抗性に 及ぼす各要因の効果と各分散成分の推定値

リンゴ栽培品種とM . sieboldii の数系統を親とする 23家系を用いて腐らん病抵抗性程度を解析した場合の 一般組合せ能力、特殊組合せ能力の推定値と有意性

リンゴ各種品種・系統の腐らん病罹病性程度の表現型値と育種価の関係

その他

  • 研究課題名:高収益な果樹生産を可能とする高品質品種の育成と省力・安定生産技術の開発
  • 中課題整理番号:213e.4
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:1997~2010年度
  • 研究担当者:阿部和幸、古藤田信博、加藤秀憲、副島淳一
  • 発表論文等:1)Abe et al. (2007) Plant Breeding 126:449-453
                       2)Abe et al. (2011) Tree Genetics & Genomes 7:363-372