ニホンナシ果実成熟に伴って100倍以上発現が変動する遺伝子群の同定
要約
ニホンナシの果実成熟過程を約1万種類の遺伝子を搭載したマイクロアレイで分析すると、34遺伝子について100倍以上の発現変動があり、エチレン生合成、細胞壁関連、転写制御やフェニルプロパノイド経路に関連する遺伝子を含んでいる。
- キーワード:ニホンナシ、マイクロアレイ、果実成熟
- 担当:果樹研・果樹ゲノム研究チーム
- 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
- 区分:果樹・育種
- 分類:研究・参考
背景・ねらい
ニホンナシは我が国で年間約30万トン生産される重要な品目である。嗜好の多様化や急速な気候変動にともない、多様な果実品質、省力適性、耐病虫性などを備えた品種の育成や栽培技術の開発が期待されている。そのためには、果実成熟のメカニズムを遺伝子レベルで詳細に把握することが必要である。しかし、現時点では細胞壁関連遺伝子、ホルモン関連遺伝子など数十の遺伝子について塩基配列の決定と機能が部分的に解析されているのみであり、非常に複雑な現象である果実成熟過程における遺伝子発現の全体像は不明である。そこで、9,812種類の発現遺伝子を搭載したニホンナシマイクロアレイを用いて、成熟過程で発現する遺伝子の種類と発現変動を解析し、成熟に関与する遺伝子群を特定することにより、育種への応用と栽培技術を用いた成熟制御技術開発の基盤を得る。
※マイクロアレイとは、ある生物種の持っている多数の遺伝子の働く時期や働きの強さ(発現量)を一度に解析する手法である。
成果の内容・特徴
- 成熟前(満開後15週)と収穫期(満開後21週)の果実について、マイクロアレイ法で遺伝子発現を比較すると、16種類の遺伝子で100倍以上発現量が増加し(図1)、18種類の遺伝子で1/100以下に発現量が減少する(図2)。
- 100倍以上発現量が増加する16種類の遺伝子の中には、エチレン生合成に関連するACC合成酵素遺伝子、ACC酸化酵素遺伝子が見出され(図1)、エチレン生合成が成熟前に急速に増大することなど既往の知見と一致する。また、細胞壁関連遺伝子群では、100倍以上発現量が増加する4種類の遺伝子(図1)と1/100以下に発現減少する3種類の遺伝子(図2)が見出され、同様に既往の知見と一致する。
- グルタチオンS転移酵素遺伝子が成熟期間で約9,000倍以上の発現増大をしており(図1)、一方フェニルプロパノイド代謝経路に関連する3種類の遺伝子は1/100以下に発現減少することが明らかとなり(図2)、ナシの成熟との関連が示唆される。
- 成熟期間で発現が100倍以上変動する合計34種類の遺伝子は、準定量PCRによって発現変動が確認できる(図3、図4)。
成果の活用面・留意点
- 34種類の遺伝子群は、公的遺伝子データベースDDBJに登録済みである。
具体的データ




その他
- 研究課題名:果樹の育種素材開発のための遺伝子の機能解析及びDNA利用技術の開発
- 中課題整理番号:221j
- 予算区分:基盤、交付金プロ(果実発現遺伝子、結実性向上)
- 研究期間:2005~2010年度
- 研究担当者:西谷千佳子、清水徳朗、藤井 浩、寺上伸吾、山本俊哉
- 発表論文等:Nishitani, C. et al. (2010) Scientia Horticulturae 124: 195-203