カンキツ果実のカロテノイド組成に関わるZEP遺伝子のアレル特異的遺伝子発現

要約

カンキツ果実のカロテノイド組成の品種間差異に関与するZEP遺伝子のゲノム配列のうち、果実成熟期のカロテノイド蓄積に関連する遺伝子座のアレル間では、果実成熟期の遺伝子発現量および5’上流域に存在するモチーフ構造が異なる。

  • キーワード:カンキツ、カロテノイド、品種間差異、アレル、遺伝子発現
  • 担当:果樹研・果樹ゲノム研究チーム
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・育種
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

カンキツ果実の色素成分カロテノイド類は種々の機能性を示すことから、高含有品種の育成が期待されている。果実へのカロテノイド蓄積には代謝酵素遺伝子の発現レベルが重要で、このうちゼアキサンチンをビオラキサンチンに変換するZEP (Zeaxanthin epoxidase) をコードする遺伝子は、ウンシュウミカンとオレンジで果実発育・成熟中の発現量が異なり、カロテノイド組成の品種間差異の一要因であると考えられる。これら遺伝子発現の制御要因を調査するため、ZEP遺伝子のゲノム配列を単離して、遺伝子座やアレルの構造を明らかにする。また、育種における機能的選抜マーカーの作成をめざし、カンキツ品種がもつZEP遺伝子のアレルと遺伝子発現の関連を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • ウンシュウミカン「宮川早生」ゲノム中には、少なくとも4種類のZEP遺伝子配列(ZEP-1m-2m-3m-4m)が存在し、このうちZEP-1m-2mは同一遺伝子座に、ZEP-3m-4mはそれ以外の遺伝子座に座乗する。「トロビタ」オレンジはZEP-1/-2遺伝子座に「宮川早生」とよく似るが塩基配列が僅かに異なるハプロタイプ(ZEP-1o/-2o)を、両者の雑種の「清見」はZEP-1o/-2mを有している。
  • 「宮川早生」ではZEP-1m/-2mの発現が果実成熟期に増大するのに対し、ZEP-4mは幼果期に発現した後、果実発育後期には発現が低下する(図1)。またZEP-3mは発現が検出されない。オレンジのZEP遺伝子(ZEP-1o-2o-3o-4o)も同様の発現パターンを示すため、主にZEP-1/-2遺伝子座の発現が果実のカロテノイド蓄積に関与し、ZEP-3m-4mは機能を持たないか、またはそれ以外の機能を有すると考えられる。
  • 果実におけるZEP-1/-2のアレル特異的な発現比は品種により異なるが、いずれもZEP-1-2より高く、調査した時期を通じてほぼ一定である(表1)。
  • 「宮川早生」および「トロビタ」オレンジゲノムのZEP-1/-2の5’上流域には図2に示すとおり、ハプロタイプ特異的な配列の他にZEP-1およびZEP-2でモチーフ構造が異なる。

成果の活用面・留意点

  • 得られた結果は、カンキツZEP遺伝子の発現制御やカロテノイド組成の品種間差異の決定機構の解明、DNAマーカー等の開発に役立てることができる。
  • ZEP-3-4が同一遺伝子座に由来するアレルであるかどうかは不明である。
  • ZEP-1/-2の5’上流域に存在するモチーフ構造の遺伝子発現制御への関与については、今後検討を要する。

具体的データ

「宮川早生」果実発育中のZEP-1m/-2m (A) およびZEP-4m (B) の発現

果実におけるZEP-1 および -2 のアレル特異的発現比

ZEP-1/-2 遺伝子の5’上流域の構造と見いだされたモチーフ

その他

  • 研究課題名:果樹の育種素材開発のための遺伝子の機能解析及びDNA利用技術の開発
  • 中課題整理番号: 221j
  • 予算区分:基盤、交付金プロ(二次代謝、機能性園芸)
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:遠藤朋子、杉山愛子、生駒吉識、藤井浩、島田武彦、清水徳朗、大村三男(静岡大)
  • 発表論文等:Sugiyama et al. (2010) J. Japan. Soc. Hort. Sci. 79 (3):263-274