カワラヨモギ抽出物の収穫後処理によるモモ灰星病抑制効果

要約

食品添加物カワラヨモギ抽出物の主成分であるカピリンは、モモ灰星病菌(Monilinia fructicola(Winter)Honey)に対して高い抗菌活性を持つ。カワラヨモギ抽出物を収穫後のモモに処理することによって、モモ灰星病の病斑拡大を抑制することができる。

  • キーワード:モモ、糸状菌抑制効果、カピリン、最小発育阻止濃度、モモ灰星病
  • 担当:果樹研・果実鮮度保持研究チーム
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・栽培
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

カワラヨモギ(Artemisia capillaris Thunb.)はキク科の多年草であり、生薬「茵陳蒿」として古くから利用されている。その抽出物である「カワラヨモギ抽出物」は食品添加物であり、酵母や様々な植物病原糸状菌に対して抗菌活性を持つことから、保存料として利用されている。カワラヨモギ抽出物において、抗菌活性を示すのは精油成分として含まれる「カピリン」であるが、カピリンはカンキツの主要な貯蔵病害である青かび病ならびに緑かび病に対して極めて高い抗菌効果が認められることから、カワラヨモギ抽出物を用いたカンキツ用防かび資材が開発・販売されている。そこで、日持ちが悪く、流通過程での果実腐敗発生の問題が大きいモモ果実について、収穫後のカワラヨモギ抽出物処理による果実腐敗病害の抑制効果について検討を行う。

成果の内容・特徴

  • カワラヨモギ抽出物の抗菌活性成分カピリンは、モモの主な果実腐敗病菌である灰星病菌に対して、最小発育阻止濃度(MIC値)0.25~0.5 ppmの極めて高い抗菌活性を示す。その他の果実腐敗病菌であるフォモプシス腐敗病菌、黒かび病菌および炭疽病菌に対するカピリンのMIC値は、各々2~4 ppmであり、抗菌活性は認められるものの灰星病菌に対する活性に比べて低い(表1)。
  • 25、50、100ppmのカピリンを含むカワラヨモギ抽出物を、収穫後のモモ果実に処理した後に灰星病菌の接種を行った場合、100ppmの濃度で処理した果実に形成される病斑の大きさは、無処理の果実に比べて有意に小さくなることから、カワラヨモギ抽出物処理は、モモ灰星病の拡大を抑制する効果がある(表2、図1)。
  • 常温(25°C)の保存条件下においては、処理と無処理の果実を比較した場合、果肉硬度、果汁糖度、果汁pH、食味等にはほとんど差は認められない。

成果の活用面・留意点

  • 本試験に使用したカワラヨモギ抽出物資材は、開発途中のものであり、市販されていない。また、市販のカンキツ用カワラヨモギ抽出物資材は、果皮障害が生じるので、モモには使用できない。
  • 本成果で得られた知見は、カワラヨモギ抽出物を用いた果実の防かび資材の開発に役立つ。

具体的データ

モモ果実腐敗病菌に対するカピリンの最小発育阻止濃度

カワラヨモギ抽出物を処理したモモ果実における灰星病抑制効果

カワラヨモギ抽出物を処理した果実における モモ灰星病斑の形成

その他

  • 研究課題名:果実の輸出等を促進する高品質果実安定供給のための基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:313a
  • 予算区分:実用技術
  • 研究期間:2007~2009年度
  • 研究担当者:中村ゆり、三好孝典(愛媛果樹研)、大嶋悟士(阪本薬品工業)、羽山裕子、
                       立木美保、吉岡博人
  • 発表論文等:中村ら(2010)園芸学研究、9(4):489-493