2つのDAM遺伝子はニホンナシの自発休眠現象に深く関わっている

要約

ニホンナシ「幸水」の2つのDormancy associated MADS-box(DAM)遺伝子(PpMADS13-1およびPpMADS13-2)の発現は、自発休眠の誘導とともに高くなり、覚醒とともに低下することから、冬季の休眠現象に深く関わっている可能性が示唆される。

  • キーワード:自発休眠導入、自発休眠覚醒、DAM遺伝子、発現解析
  • 担当:果樹研・果樹温暖化研究チーム
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・栽培
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

ニホンナシを含む落葉果樹は、秋季~冬季に加温しても萌芽しない自発休眠状態となり、ある一定量の低温に遭遇することで自発休眠から覚醒して萌芽する。最近、モモにおいて、休眠に関与する6つのMADS-box遺伝子(DAM遺伝子:Dormancy associated MADS-box)が単離・同定され、休眠しないevergrowing変異体では、そのうちの4つが欠失し、残る2つの発現も検出されないことが報告されている(Bielenberg et al. 2008. Tree Genet. Genomes 4:495-507)。また、ウメにおいては、DAM遺伝子の発現量は休眠の誘導とともに高くなり、覚醒とともに低下することが報告されている(Yamane et al. 2008. J. Am. Soc. Hortic. Sci. 133:708-716)。そこで、ニホンナシから2種類のDAM遺伝子を単離するとともに、遺伝子の発現と自発休眠現象との関係について明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 9月~翌年2月にかけて、圃場より経時的に採取したニホンナシ「幸水」の切枝をインキュベータ内(25°C、16時間照明)で培養した場合、葉芽の萌芽率は、9月初旬には既に低く、その後12月初旬まではまったく萌芽しない。12月下旬になると萌芽率が上昇し、翌年の2月中旬にはほとんど全ての葉芽が萌芽する(図1)。このことから、「幸水」の葉芽は、9月初めには既に自発休眠が誘導されており、12月上旬まで自発休眠が深まるが、12月下旬になると自発休眠から覚醒しはじめ、2月中旬には完全に自発休眠から覚醒するものと推定できる。
  • 2種類のDAM(PpMADS13-1およびPpMADS13-2:DDBJ登録番号AB504716およびAB504717)の発現量は、9月初めは低いが、萌芽が全く認められない自発休眠覚醒直前の12月初旬まで高くなる。その後、萌芽し始める12月下旬になると発現量が低下し始め、萌芽率の上昇とともに、発現が低くなっていく。そして、自発休眠が完全に覚醒したと推定される2月中旬には、最も高い発現レベルの約1/5から1/7程度にまで低下する(図2)。
  • 以上のように、単離した2種類のDAMの発現は自発休眠の誘導、覚醒にともない発現が変化することから、ニホンナシの冬季の休眠現象に深く関わっている可能性が示唆される。

成果の活用面・留意点

  • 萌芽率は切枝で調査を行っているため、実際の樹体の葉芽よりも早く萌芽する傾向にある。
  • ニホンナシでは、品種によって自発休眠覚醒に必要な低温要求量が異なることが明らかにされていることから、今後「幸水」以外の品種において同様な解析を行うことで、DAMの発現と自発休眠の深さとの関係が明らかになる可能性がある。

具体的データ

「幸水」葉芽の自発休眠中における萌芽率の変化

「幸水」葉芽の自発休眠中におけるPpMADS13-1(左)およびPpMADS13-2(右) のリアルタイムPCR による発現解析

その他

  • 研究課題名:気候温暖化がもたらす果樹生産阻害要因の解明とその対応技術の開発
  • 中課題整理番号:215a.4
  • 予算区分:交付金プロ(温暖化適応)
  • 研究期間: 2008~2010年度
  • 研究担当者:森口卓哉、阪本大輔、伴雄介、島田武彦、伊東明子、中島育子、斎藤寿広
  • 発表論文等:Ubi et al. (2010) J. Am. Soc. Hortic. Sci. 135(2):174-182