国内で初めて検出されたカンキツウイロイドV

要約

海外で報告のあるカンキツウイロイドV(CVd-V)が、国内のカンキツから初めて検出され、少なくとも2変異株が認められる。遺伝子診断調査により275樹のうち44樹で陽性と確認され、国内ですでに分布しているものと推察できる。

  • キーワード:カンキツ、ウイロイド、検定、診断用プライマー
  • 担当:果樹研・果樹病害研究チーム
  • 代表連絡先:成果情報のお問い合わせ
  • 区分:果樹・病害虫
  • 分類:研究・参考

背景・ねらい

カンキツに感染するウイロイド(環状1本鎖RNAのみから成る病原体)として、これまでに6種類が報告され、全て国内に存在することが知られる。最近、7種類目となる新種のカンキツウイロイドV(CVd-V)が海外で発見され、アメリカ、スペイン、ネパール、オマーンのカンキツから検出されている。日本国内での分布も懸念されるため、国内のカンキツからCVd-Vの検出を試みる。

成果の内容・特徴

  • 逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を用いた既報の遺伝子診断(Serra et al. 2008)により、CVd-Vが国内のカンキツから初めて検出される。
  • 国内のCVd-Vには、遺伝子の塩基配列が異なる、少なくとも2変異株が存在する(図1)。
  • 新たに設計した2変異株に共通の塩基配列を検出するプライマー(表1)を利用したRT-PCRによる遺伝子診断で、CVd-Vを安定的に検出することができる(図2)。
  • RT-PCRにより、CVd-Vの国内での分布を調べたところ、調査した275樹のうち44樹で陽性を確認する。調査樹の中で、一般圃場から採集したものは152樹であり、そのうちの37樹で陽性であったことから、国内にCVd-Vがすでに分布するものと推察できる。
  • 陽性樹は「不知火」が36樹と最も多く、樹勢の低下やカラタチ台木の病徴を示すものも見られるが、他の数種ウイロイドとの混合感染が多いため、「不知火」等の栽培樹に対するCVd-Vの影響の程度については、今のところ確認できていない。

成果の活用面・留意点

  • CVd-Vの特異的遺伝子診断の手法は、母樹検定等に利用して、無毒カンキツ苗の供給に役立てることができる。
  • 栽培カンキツ樹に対する影響は、CVd-V単独感染の場合、および他のウイロイドとの混合感染の場合も現状では不明であり、今後の調査が必要である。

具体的データ

カンキツウイロイドV 遺伝子の塩基配列が異なる2 変異株

カンキツウイロイドV を検出するためのプライマー

RT-PCR によるカンキツウイロイドV の検出

その他

  • 研究課題名:果樹の紋羽病等難防除病害抑制のための要素技術の開発
  • 中課題整理番号:214p
  • 予算区分:基盤
  • 研究期間:2006~2010年度
  • 研究担当者:伊藤隆男、太田智
  • 発表論文等:Ito and Ohta (2010). J. Gen. Plant Pathol. 76 (5): 348-350