極早生で良食味のニホンナシ新品種「はつまる」

要約

「はつまる」は、7月下旬から収穫可能な極早生で、果肉が軟らかく食味良好なニホンナシ新品種である。「幸水」より20日程度早く収穫開始が可能で、ニホンナシで有利販売が可能な盆前の収穫が、関東以北の露地栽培でも可能である。

  • キーワード:ニホンナシ新品種、極早生、良食味
  • 担当:果樹・茶・ナシ・クリ等
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・品種育成・病害虫研究領域
  • 分類:普及成果情報

背景・ねらい

ニホンナシでは、非常に有利な販売が可能となる、盆前に収穫できる極早生の品種が求められている。現在の主力早生品種である「幸水」の露地栽培における成熟期は全国平均で8月中下旬であり、盆前に成熟可能な地域は西南暖地等の温暖な地域に限られている。そこで、関東以北等の成熟期の遅い地域においても、盆前に出荷可能な良食味の極早生品種を育成する。

成果の内容・特徴

  • 1993年に農林水産省果樹試験場(現 農研機構果樹研究所)において、極早生の「筑水」に早生の筑波43号(162-29×平塚17号)を交雑し、得られた実生から選抜した。2007年から2013年までナシ筑波54号としてナシ第8回系統適応性検定試験に供試してその特性を検討し、2014年2月の同試験成績検討会において新品種候補とした。2014年7月11日に品種登録出願し、12月4日に出願公表された。
  • 樹勢はやや強く、枝梢の発生はやや多い。短果枝の着生はやや多く、えき花芽の着生は中程度である。開花中央日は「幸水」より早い。育成地(茨城県つくば市)における収穫期は7月下旬で、「幸水」より20日程度早い(表1)。系統適応性検定試験において、福島市でも盆前収穫が可能である。
  • 果形は円形で、果実の大きさは331gで「幸水」と比較するとやや小さい(図1、表2)。果肉硬度は「幸水」より低く、果肉は軟らかい。果汁の糖度は13.0%と「幸水」と同程度である。pHは5.1でほとんど酸味を感じない。年により心腐れやみつ症がわずかに発生する。
  • 全国的に花芽の枯死や発育不良が認められ、場所によっては生産上の問題となり得る。育成地では、えき花芽の枯死率は8.8%で、「幸水」より高く、短果枝では1.6%で「幸水」と同程度である。一方、熊本(宇城市)ではえき花芽の53.6%が枯死した(表3)。
  • 黒斑病には抵抗性を示す。「幸水」と同様、黒星病に対しては罹病性であるが、慣行防除で栽培可能である。S 遺伝子型はS1S4で、いずれの主要品種とも交雑和合性を示すと考えられる。

普及のための参考情報

  • 普及対象:ニホンナシ生産者
  • 普及予定地域・普及予定面積・普及台数等:関東以北等、従来露地栽培の「幸水」の盆前収穫が困難であった地域での普及が期待される。(許諾苗木生産業者数:12県、34業者)。
  • その他:苗木販売は2015年秋季から開始予定。花芽枯死の発生程度は東日本より西日本で比較的高い傾向がみられ、特に西日本では品種選択の際に注意が必要である。枝枯れや胴枯れ症状の発生報告があり、その発生要因等検討が必要である。ジベレリン処理による収穫期の前進や果実の肥大促進効果が報告されている。

具体的データ

図1,表1~3

その他

  • 中課題名:高商品性ニホンナシ・クリ及び核果類の品種育成と省力生産技術の開発
  • 中課題整理番号:142a0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:1993~2014年度
  • 研究担当者:齋藤寿広、澤村豊、高田教臣、壽和夫、西尾聡悟、平林利郎、佐藤明彦、 正田守幸、加藤秀憲、寺井理治、阿部和幸、佐藤義彦、樫村芳記、尾上典之、西端豊英、 鈴木勝征、木原武士、内田誠
  • 発表論文等:齋藤ら「はつまる」 品種登録出願第29377号 (2014年12月4日出願公表)