欧州ブドウから見出されたブドウ黒とう病の量的抵抗性

要約

国内の主要な品種・系統には病斑がまったく生じない完全な抵抗性を示す遺伝資源は見いだされないが、量的抵抗性を示す品種は、欧米雑種だけでなく欧州ブドウ品種にも存在する。

  • キーワード:ブドウ黒とう病、欧州ブドウ、病斑径、病斑数、接種試験
  • 担当:果樹・茶・ブドウ・カキ
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・ブドウ・カキ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

ブドウ黒とう病は、雨量の多い日本の露地栽培で問題となる重要病害の一つである。本病の抵抗性品種を育成するためには、果実品質の高い欧州ブドウあるいは育成品種・系統を幅広く調査し、有望な母本を見出す必要がある。そこで、果樹研究所ブドウ・カキ研究拠点に保存されているブドウ遺伝資源(133品種・系統)について、切葉へ黒とう病菌を接種した後に病斑数と病斑径を調査することにより、黒とう病抵抗性を定量的に評価する。一般に罹病性とされる欧州ブドウを醸造用とそれ以外(主に生食用ブドウ)の2グループに分別し、加えて米国育成欧米雑種、日本育成欧米雑種、四倍体欧米雑種にグループ分けし黒とう病抵抗性の差異を定量的に明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 供試品種・系統においては、発病を完全に抑制する質的な抵抗性はなく、本研究で解明されたブドウ黒とう病抵抗性は量的形質である。
  • 醸造用欧州ブドウは、それ以外の欧州ブドウと比較して黒とう病抵抗性が強いものが多い(表1)。
  • 醸造用以外の欧州ブドウは、病斑径、病斑数ともに最も罹病的な反応を示すグループであるが(表1)。病斑径3.0mm以上となる抵抗性の極めて弱い欧州ブドウには、「リザマート」や「マスカットオブアレキサンドリア」といった日本国内で生食用ブドウ育種の重要な母本となった品種が含まれる(表2)。
  • 米国育成欧米雑種は、病斑径が小さく、病斑数も少ない品種が多く、最も抵抗性が強いグループである(表1)。醸造用欧州ブドウとは病斑数が少ない品種を多く含む点が異なる。日本育成欧米雑種ブドウは、醸造用以外の欧州ブドウ並みに罹病性の品種・系統を多く含む。四倍体欧米雑種は、病斑径、病斑数ともに中間的な抵抗性を示す(表1)。
  • 欧州ブドウに見いだされた黒とう病抵抗性品種は、「シャルドネ」、「ピノノワール」、「リースリング」、「シャスラ」といった著名な醸造用品種や、「マスカットハンブルグ」といった生食用品種も含まれる(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 果実品質の優れる生食用欧州ブドウには黒とう病抵抗性が著しく低いものが多いので、黒とう病抵抗性生食用ブドウ育種を計画する際には注意を要する。
  • 米国育成欧米雑種は有力な抵抗性母本を多く含む。また、一定の抵抗性を示す一部の欧州ブドウは抵抗性育種の母本となりうる。
  • 本研究で供試していない品種・系統あるいは野生ブドウが、質的な黒とう病抵抗性を有する可能性はある。

具体的データ

表1~2

その他

  • 中課題名:高商品性ブドウ・カキ品種の育成と省力生産技術の開発
  • 中課題整理番号:142b0
  • 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
  • 研究期間:2009~2014年度
  • 研究担当者:河野淳、佐藤明彦、伴雄介、三谷宣仁
  • 発表論文等:Kono A. et al. (2013) HortSci. 48:1433-1439