リンゴのS9-およびS10-RNaseに連鎖したF-box遺伝子群の単離と解析

要約

リンゴ品種「Spartan」から単離した10個の新規F-box遺伝子(MdFBX21-30)を解析した結果、リンゴには花粉側S遺伝子候補となるF-box遺伝子が少なくとも11タイプ存在する。

  • キーワード:リンゴ、自家不和合性、花粉側S遺伝子、F-box遺伝子、S-RNase
  • 担当:果樹・茶・リンゴ
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・リンゴ研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

リンゴ(Malus×domestica Borkh.)の自家不和合性は、S遺伝子座に座乗する雌しべ側S遺伝子と花粉側S遺伝子のセットであるSハプロタイプ(S1S2S3、...)に制御される。これまでに雌しべ側S遺伝子としてRNA分解酵素をコードするS-RNaseが同定されている。一方、花粉側S遺伝子は長い間不明であったが、近年その候補として複数のF-box遺伝子が単離されている。本研究では、リンゴの自家不和合性の分子機構を解明し、結実管理・育種へ応用するため、花粉側S遺伝子の候補となる新規F-box遺伝子を単離する。

成果の内容・特徴

  • リンゴ品種「Spartan」(S9S10)から単離した10個の新規F-box遺伝子(MdFBX21-30)は、S-RNaseと完全連鎖し、花粉特異的発現およびSハプロタイプ特異的多型を示したことから、花粉側S遺伝子の有力な候補であると考えられる。これまでに同定されたF-box遺伝子と合わせ、リンゴのS9ハプロタイプには14個、S10ハプロタイプには7個のF-box遺伝子が少なくとも存在する。
  • MdFBX21-30とこれまでにリンゴの花粉側S遺伝子候補として報告された25個のF-box遺伝子(MdSLFMdSFBBMdFBX)の推定アミノ酸配列を用いて系統樹を作成した結果、31個のF-box遺伝子は同一Sハプロタイプ内よりも異なるSハプロタイプ間で推定アミノ酸配列の相同性が高く(89.6%以上)、11タイプ(SFBB1-SFBB11)に分類される(図1)。

成果の活用面・留意点

  • S9-RNaseに完全連鎖するMdFBX21-23S10-RNaseに完全連鎖するMdFBX24-30を特異的に増幅するプライマーを用いたPCRにより、それぞれS9およびS10ハプロタイプを同定できる。
  • S-RNase型の自家不和合性を示すナス科植物では、17タイプのF-box遺伝子のうち少なくとも7タイプが花粉側S遺伝子として機能することが証明されている。この結果に基づいて、ナス科植物では自家不和合性の分子機構として「複数の花粉側S遺伝子が分担して数十種類に及ぶ非自己S-RNaseを認識・分解する」という「協調的非自己認識モデル」が提唱されている。リンゴにおいても花粉側S遺伝子の候補となるF-box遺伝子が少なくとも11タイプ存在していたことから、リンゴの自家不和合性も「協調的非自己認識モデル」で説明できる可能性が高い。したがって、リンゴの花粉側の自家和合性変異体を創出するには、花粉側のS遺伝子数を増大させる変異 (倍数化など) を誘導する手法が有効であると推察される。

具体的データ

図1~,表1~

その他

  • 中課題名:高商品性リンゴ等品種の育成と省力生産技術の開発
  • 中課題整理番号:142e0
  • 予算区分:交付金
  • 研究期間:2010~2014年度
  • 研究担当者:岡田和馬、森谷茂樹、土師岳、阿部和幸
  • 発表論文等:Okada K. et al. (2013) Plant Reprod. 26:101-111