リナロールの抗菌活性とウンシュウミカンでのリナロールを合成する遺伝子の発現
要約
カンキツ類の果皮に含有されるリナロールは、カンキツかいよう病や緑かび病菌に対して抗菌活性を示す。ウンシュウミカンの果実や葉では、これらの菌の接種や傷害処理によって、リナロール合成酵素遺伝子の発現量が増大する。
- キーワード:カンキツ、リナロール、抗菌活性
- 担当:果樹・茶・果樹ゲノム利用技術
- 代表連絡先:電話 029-838-6453
- 研究所名:果樹研究所・カンキツ研究領域
- 分類:研究成果情報
背景・ねらい
カンキツ類の果皮に含有される香気成分には抗菌活性を示すものが含まれており、これらの成分を高含有化させることにより病害抵抗性を有する育種素材の開発が期待できる。このため、カンキツの主要病害に対して抗菌活性を持つ香気成分を同定し、当該成分の高含有化に向けてカンキツの香気成分生成に関連するモノテルペンやセスキテルペンの代謝制御機構を解明する必要がある。そこで、カンキツの主要病害であるかいよう病や緑かび病に対して抗菌活性を持つ香気成分を同定し、その合成酵素遺伝子を単離して遺伝子機能を明らかにする。
成果の内容・特徴
- カンキツの果皮に含まれる18種類の香気成分の標品を用いて、カンキツかいよう病と緑かび病に対する抗菌活性を調査した結果、リナロールなどの鎖状テルペン類がこれらの病原菌に対して抗菌活性を示す(図1)。
- アミノ酸配列の相同性検索の結果から、ウンシュウミカンから単離したCuSTS3-1とCuSTS3-2はモノテルペン合成酵素遺伝子、CuSTS4はセスキテルペン合成酵素遺伝子と高い相同性を示し、これらの遺伝子由来のタンパク質(大腸菌で生成した)は、いずれも基質のゲラニルピロリン酸を基質としてリナロールを生成する。このことから、CuSTS3-1、CuSTS3-2、CuSTS4は、リナロール合成酵素遺伝子と同定できる(図2)。
- CuSTS4由来のタンパク質は、ファルネシルピロリン酸を基質として、ネロリドールも生成する(図2)。
- ウンシュウミカンでは、リナロール合成酵素遺伝子は、葉、花、幼果実や成熟果実の果皮で発現し、CuSTS3-1とCuSTS4はかいよう病、緑かび病の菌の接種や傷害処理により、果実や葉で発現が増加する(図3)。
成果の活用面・留意点
- 単離したリナロール合成酵素遺伝子のアクセッション番号は、CuSTS3-1:AB857230、CuSTS3-2:AB857231、CuSTS4:AB857232である。
- カンキツかいよう病や緑かび病の抵抗性素材として利用されているポンカンの葉や成熟果実では、リナロール含有量が他のカンキツ類よりも多く、これらの病害に対するポンカンの圃場における抵抗性とリナロール含有量との関連について現在調査を進めている。
具体的データ
その他
- 中課題名:果樹におけるDNAマーカー育種のための高度基盤技術の開発
- 中課題整理番号:142g0
- 予算区分:交付金、競争的資金(科研費)
- 研究期間:2004~2014年度
- 研究担当者:島田武彦、遠藤朋子、藤井浩、Ana Rodríguez(IBMCP)、 Leandro Pena(IBMCP)、 大村三男(静岡大農)
- 発表論文等:Shimada T. et al. (2014) Plant Science 229:154-166