リンゴの収穫期など複雑な果実形質を支配する主要なQTLの同定

要約

リンゴの収穫期を制御するQTLのひとつが、収穫前落果性のQTLとほぼ同位置にあり、早生性と落果性は連鎖して子孫に遺伝する。また、果汁褐変性を制御するQTLは酸度のQTLとほぼ同位置にあり、果汁が褐変しにくい個体は高酸度となりやすい。

  • キーワード:リンゴ、QTL、収穫期、収穫前落果性、酸度、果汁褐変
  • 担当:果樹・茶・果樹ゲノム利用技術
  • 代表連絡先:電話 029-838-6453
  • 研究所名:果樹研究所・品種育成・病害虫研究領域
  • 分類:研究成果情報

背景・ねらい

リンゴの品種育成過程では、果実品質の優劣を評価するために、実生が結実するまで5~8年もの間栽培管理を続ける必要があり、大変な労力と時間を要する。このため、結実を待たず早期に果実品質を予測・選抜できるDNAマーカーの開発が望まれている。そこで、優良な早生品種や、褐変しにくい品種の効率的な育成を目指して、収穫期や果汁褐変等に関わるQTL(quantitative trait locus: 量的形質を制御している遺伝子座)を同定し、選抜用のDNAマーカーを開発すると同時に、その利用に関する知見を得る。

成果の内容・特徴

  • 「王林」と「あかね」の後代137実生を用いた遺伝解析では、リンゴの収穫期を制御するQTLは第3、10、15、16連鎖群上の4箇所に検出される。一方、収穫前落果性のQTLは第15連鎖群上の1箇所で検出される(図1)。
  • 第15連鎖群上の収穫期のQTLと収穫前落果性のQTLはほぼ同位置にあり、これらはMdACS1マーカーを用いることにより、対立遺伝子をMdACS1-1型とMdACS1-2型に識別できる(図1)。親からMdACS1-1型が遺伝した個体を選抜すると、MdACS1-2型が遺伝した個体と比較して収穫期の平均が1.5週早まる反面、収穫前落果率の平均値が27%上昇する(図2)。
  • 同上の遺伝解析では、リンゴの果汁褐変性を制御するQTLは第10、16連鎖群上の2箇所で検出される。一方、酸度のQTLは第8、16連鎖群上の2箇所で検出される(図1)。
  • 第16連鎖群上の果汁褐変性のQTLと酸度のQTLはほぼ同位置にあり、これらはTsuENH022マーカーを用いることにより、対立遺伝子をA型とB型に識別できる(図1)。親からA型が遺伝した個体を選抜すると、B型が遺伝した個体と比較して果汁褐変指数の平均値が1.5低下する反面、酸度の平均値が0.18%上昇する(図3)。

成果の活用面・留意点

  • 同定されたQTLは「王林」と「あかね」の交雑組合わせで検出されたものである。
  • 開発したマーカーはSSRマーカー、およびInsertion/Deletionマーカーであり、SSRマーカーに関しては、アガロースゲルを用いた検出では長さの差がわずかな増幅バンドを誤って判定する可能性があるので、遺伝子型の解析および判定にあたってはDNAシーケンサーを用いるのが望ましい。

具体的データ

図1~3

その他

  • 中課題名:果樹におけるDNAマーカー育種のための高度基盤技術の開発
  • 中課題整理番号:142g0
  • 予算区分:交付金、委託プロ(ゲノム)
  • 研究期間:2011~2014年度
  • 研究担当者:國久美由紀、森谷茂樹、阿部和幸、岡田和馬、土師岳、林武司(中央農研)、金會澤(契約研究員等)、西谷千佳子、寺上伸吾、山本俊哉
  • 発表論文等:Kunihisa M. et al. (2014) Breed. Sci. 64:240-251