根圏細菌によるコムギ立枯病の生物的防除における抗菌物質生産の意義
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要約
長期連作畑に栽培した小麦根より分離し、コムギ立枯病抑制効果の高い根圏細菌菌株は、ピロールニトリン、フロログルシノール、シアン化物、蛍光物質等を生産する。これらの抗菌物質生産が発病抑制に重要な役割を持つ。
- 担当:北海道農業試験場・畑作研究センター・環境制御研究チーム
- 連絡先:011-857-9447
- 部会名:生産環境
- 専門:作物病害
- 分類:研究
背景・ねらい
コムギ立枯病(病原菌:Gaeumannomycesgraminisvar.tritici)は、連作によって数年間の激発後発病が減少し、それ以降抑止される現象が自然発生的な生物的防除の好例として世界的に知られているが、その現象の解析と抑止機構を解明する必要がある。我が国で、立枯病の衰退した土壌の抑止要因を探索するとともに、抑止作用のメカニズムを明らかにして、発病を軽減する技術の開発に資する。
成果の内容・特徴
- 長期連作畑に栽培した小麦根面に細菌や糸状菌が多数観察され、それらの分離菌株のなかに立枯病抑制効果を示すものがある。細菌菌株のうち、4.3%(13/304)に抑制効果が認められ、その単独または糸状菌との組合せ処理により抑制効果が認められる(表1)。
- コムギ立枯病抑制効果の高い細菌菌株は、培地上で病原菌に対する拮抗作用が強く、抗菌物質生産性が認められる。これらの菌株は、Pseudomonasfluorescensである。
- これらの菌株によって生産される抗菌物質は、ピロールニトリン、フロログルシノールおよびシアン化物の他、未同定の蛍光性物質である。
- トランスポゾン導入により抗菌物質生産性を欠失した変異株が作成でき、欠失株は病原菌に対する抗菌活性を失う(表2)。これらの変異株は、培養液からの抽出法の他、培養菌体をTLCプレートに付着させて溶媒で展開する直接TLC法でピロールニトリン、フロログルシノールを検出することによって確認できる。
- これらの抗菌物質生産性を欠失したTn5導入変異株を用いて発病抑制効果試験を行ったところ、フロログルシノール生産がコムギ立枯病抑制に重要な意味を持つことが示唆された(図1)。ピロールニトリン生産も同様の働きを持つことが示唆されている。
成果の活用面・留意点
- コムギ立枯病の生物的防除法の開発に利用できる。
- ピロールニトリンまたはフロログルシノール生産性の根圏細菌菌株は、コムギ立枯病の生物的防除に利用できる可能性がある。物質生産株の利用にはバイオハザード的視点にも留意する必要がある。
具体的データ



その他
- 研究課題名:コムギ立枯病の発病抑止要因の探索と有効利用法の開発
- 予算区分:一般別枠(安全性)
- 研究期間:平成7年(平成3年~7年)
- 発表論文等:
長期連作小麦根より分離した微生物による立枯病抑制、日植病報、59(1)、1993
PseudomonasfluorescensLRB3W1菌株およびTn5変異株による拮抗物質生産とコムギ立枯病抑制における役割、日植病報、61(3)、1995
コムギ立枯病菌に対する抗菌物質生産菌株の簡易検出法、日植病北海道支部会、1995