らい小麦子実の食品利用適性

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要約

らい小麦の北海道への導入を検討する場合、子実の利用適性が大きな鍵となる。らい小麦子実を用いて試作したパン、クッキー、味噌、麺、ビールは、従来にない独特な風味を持ち、地域特産品等への利用可能性がある。

  • 担当:北海道農業試験場・総合研究部・総合研究第3チーム、畑作研究センター・流通システム研究室、生産環境部・養分動態研究室、神戸女子大学・食品科学科・瀬口正晴助教授
  • 連絡先:0155-62-9286
  • 部会名:総合研究
  • 専門:加工利用・栽培
  • 対象:麦類
  • 分類:行政

背景・ねらい

らい小麦は夏の寒冷な気候に強く、小麦栽培が不適な根釧地域でも、適切な防除を行うことで栽培が可能である。この麦は乾物生産力が高く、わらの供給に最適であるが、子実収量も高い。らい小麦を円滑に導入するためには、栽培法の確立と同時に、子実の用途開発が重要である。そこでらい小麦子実の各種食品への利用適性を検討し、多様な消費者のニーズに応える地域特産的食品を造るための、基礎的データの収集を目的とした。

成果の内容・特徴

  •  パン・クッキー:らい小麦粉は粘りが強く、単用でパンを造るのは難しい。しかし、パン用の小麦粉に数~25%程度(重量比)加えると、小麦粉単用より容積が増える (図1) 。これはらい小麦の水溶性画分にある α-アミラーゼと思われる酵素様物質の働きで、水溶性画分と小麦粉でパンを造ると、容積が増えることが確認されている。また、らい小麦粉を加えたパンは、独特な甘い香りと褐色の焼き色があり、パンのヴァリエーションを増やすのに有効である。クッキーも焼き色が褐色で、歯切れが良くて香ばしいため、食味試験では小麦より評点が高い。
  • 味噌:らい小麦を元麹とした味噌は、米味噌と比較すると蛋白溶解率が高く、色が濃い特徴を持つ(表1)。麦味噌は一般に旨みが強いといわれるが、らい小麦味噌も遊離アミノ酸が多くて旨みが強く、香気成分で抗酸化、抗腫瘍活性の機能性物質HEMF(4-Hydroxy-2-ethyl-5-methyl-3-furanone)が認められる。ただし、らい小麦味噌は種皮が残るため、漉し味噌とする必要がある。
  • 麺:らい小麦麺はうどんやそばと比較すると独特な風味はあるが、ピークがはっきりせず低い荷重で破断されるため、歯切れが悪くてこしも感じられない(図2)。ただし、中力粉を2割(重量比)加えるとかなり改善され、5割の混合でうどんと同様な食感となる。
  • ビール:ビール用モルトでは、麦芽のエキス含量や澱粉糖化酵素力が高く、こくが強い点が注目されるが、ろ過速度が遅く、最終発酵度が低いという難点がある(表2)。

成果の活用面・留意点

  • 試験の規模は、いずれも実験室および小テストプラントレベルである。
  • パンの容積を増加させる酵素様物質は、パン生地改良資材として利用可能性がある。
  • ビールのろ過速度はもみ殻等の添加で改善できるため、地ビールとしては利用可能性がある。
  • らい小麦子実は正常粒でもアミラーゼ活性が高いことが明らかになりつつある。このため、正常粒でも穂発芽粒でもパン用や麺用に利用する場合、大きな違いは認められない。
  • 用いた品種はすべてPRESTO(ポーランド産)である。

具体的データ

図1.らい小麦粉の混合割とパンの容積

 

表1.味噌成分の比較

図2.各種麺の物性比較

 

表2.麦芽分析値の比較

 

その他

  • 研究課題名:地域資源の高度利用システムの開発
  • 予算区分:経常、特別研究(実用化促進)
  • 研究期間:平成9年度(平成5年~9年)
  • 研究担当者:中司啓二、山内宏昭、唐澤敏彦、瀬口正晴(神戸女子大)、秦隆夫
  • 発表論文等:中司啓二、山内宏昭、唐澤敏彦、瀬口正晴(神戸女子大)、秦隆夫、Effect of Triticale Flour on Breadmaking Performance.AACC Annual Meeting.,42(8),672,1997