キュウリモザイクウイルスの遺伝子型識別

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要約

2種類のサブグループからなるキュウリモザイクウイルス について、それぞれのサブグループに特有な塩基配列を見いだし、その配列を利用して 両者を識別して検出する遺伝子診断法を開発した。

  • 担当:北海道農業試験場・地域基盤研究部・越冬ストレス研究室
  • 連絡先:011-857-9276
  • 部会名:基盤研究
  • 専門:作物病害
  • 対象:微生物
  • 分類:研究

背景・ねらい

キュウリモザイクウイルス(CMV)は、単子葉草本植物から双子葉木本植物までの広い宿主範囲を持つ重要病原ウイルスである。北海道では、イネ・ムギ類を除く主要作物で、CMVによるモザイク病や萎縮病が大きな被害を与えている。CMVは、他のすべて植物ウイルスと同じく、有効な防除薬剤かなく、その防除対策の確立を目指して、抵抗性遺伝資源の探索、弱度ウイルスの開発等が積極的に進めらている。しかしCMVには遺伝子型が異なる2種類のサブグループが存在し、両者が混合感染して複合ウイルス病害を引き起こすことが知られている。そのため両者の混合感染の有無を明確に判定できる検定技術の確立なしには、CMVの効果的な防除及び抵抗性作物の効率的な開発が困難である。

成果の内容・特徴

  • サブグループI属するCMV-Y、-Fny、-O、-M、-Cの5系統とサブグループII属するCMV-Q、-Kin、-WL、-TRKの4系統について、それぞれの公開されている外被タンパク質遺伝子の塩基配列を比較解析すると、すべての系統で塩基配列が同一の領域(CMV共通領域)と、それぞれのサブグループに属する系統間でのみ塩基配列が同一である領域(サブグループ特異的領域)が見いだされる(図1)。
  • サブグループ特異的領域に対するプライマーとCMV共通領域に対するプライマーを用いて逆転写PCRを実施することにより、サブグループI属するCMV-Y、-Ta9、-Ta17の3系統とサブグループII属するCMV-P、-Ta8の2系統の外被タンパク質遺伝子の遺伝子型を明確に識別できる (図2)。
  • 両サブグループの外被タンパク質遺伝子の逆転写PCRにより同時に増幅するためには、プライマーA(5’CGAGTCATGGACAAATCTGAATCAA3’)、プライマーB(5’ACATCTATTACCCTGAAACCGCCTG3’)、及びプライマーC3E2C(5’AGYCCTTCCGAAGAAAYCTAGGAGA3’)の混合プライマーが最適である。このプライマーカクテルを用いた逆転写PCRによって、CMV-Yと-Pの2系統を接種したタバコについて、CMV-Y単独感染株、CMV-Y単独感染株及び両系統の混合感染株の識別が可能である (図3)。

成果の活用面・留意点

  • CMVのサブグループの識別が容易に行え、複数のCMV系統による混合感染の有無が調べられる。
  • すべてのCMV系統に適用できることを確認する必要がある。
  • 外被タンパク質遺伝子のみを検出対象としているので、ゲノムの置換やRNA組み換えの有無についての情報は得られない。

 

具体的データ

図1.CMVサブグループの識別に利用したプライマーの位置

 

図2.サブグループ特異的プライマーによるCMV-I及び-II外被タンパク質遺伝子の増幅 図3.CMV混合感染タバコの検出

 

 

その他

  • 研究課題名:ユリの複合ウイルス病害に関与する複数病原性遺伝子の特異的同時検出技術の開発
  • 予算区分:病原遺伝子
  • 研究期間:平成9年度(平成8年~9年)
  • 研究担当者:寺見文宏
  • 発表論文等:ウイルスの遺伝子識別方法、平成9年6月特許出願(特願平9-15946)