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イネの雄しべには、花粉の生育に同調して高濃度のアラビノガラクタンプロテインとアラビノガラクトオリゴ糖が順に蓄積する。低温(12°C)はこれら糖質の代謝を阻害するが、耐冷性の強い品種ほど阻害されない傾向がある。
作物の冷害(障害型不稔)は、雄しべの中で花粉を形成する生化学反応が低温によって阻害されることによって起こる。有効な冷害対策技術を効率的に開発するためには、冷害の発生メカニズムを基礎的に理解し、問題解決のターゲットを絞りこむ必要がある。このため、花粉の形成に関わる数多くの物質の中から、冷害の原因となるキー物質を発見することをねらいとした。
1. 低温に極めて弱い生育時期の雄しべには、アラビノガラクタンプロテイン(AGP)とアラビノガラクトオリゴ糖という糖質が、前後して高濃度に蓄積することを初めて発見した。
2. これら蓄積物質の交代のタイミングは、四分子から小胞子が放出される時期(図1ステージ2→3)に同調している。
3. 低温(12°C)は正常な物質代謝(AGPの減少・オリゴ糖の増加)を阻害する効果を持っており(図1)、この効果を耐冷性の異なるイネ品種間で比較すると、耐冷性の強い品種ほど低温の影響を受けにくいことが分かった(図2)。
4. 以上の結果より、イネの雄しべに発見されたAGP及びオリゴ糖は花粉の形成にとって重要な役割を果たしている物質であると同時に、低温下でのこれら糖質の代謝阻害が花粉の生育障害を引き起こす原因の1つであると推定される。
1. 本知見及び研究方法は作物全般にわたり、遺伝的雄性不稔や花粉形成のメカニズムの解明に活用できる。人工気象器内のポット試験による結果であること、冷害の原因には他にも複数の要因が関与していることに留意する必要がある。