花粉症を起こさないオーチャードグラスの細胞質雄性不稔系統

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要約

オーチャードグラスの細胞質雄性不稔株MS795、MS796由来から、細胞質雄性不稔系統とそれらの不稔性を維持する花粉親系統を育成した。細胞質雄性不稔系統はワセミドリより出穂期が2日程早く、越冬性に優れているが、耐病性、収量性はワセミドリより劣った。

  • 担当:北海道農業試験場・草地部・イネ科牧草育種研究室
  • 連絡先:011-857-9273
  • 部会名:畜産・草地
  • 専門:育種
  • 対象:牧草類
  • 分類:研究

背景・ねらい

花粉症が各地で社会的な問題になっているが、北海道では花粉症を引き起こす三大植物として、イネ科牧草、シラカンバ、ヨモギがあり、そのうち30%ほどがイネ科牧草によると報告されている。そこで、日本全国で広く栽培されているオーチャードグラス(カモガヤ)について、細胞質雄性不稔を利用した無花粉化系統の育成を行う。

成果の内容・特徴

  • 1976年に草地試験場より分譲を受けた8つの細胞質雄性不稔株の内、不稔性を維持する花粉親個体を検出するため、生き残ったMS795、MS796の2株と正常稔性の12株の間で24組の交配を行った。MS796との交配後代が全て完全不稔型(S2)個体であった3株の花粉親(CL599、1014、1057)の多交配によって、不稔性を維持する花粉親系統HO-MA-1を育成した(表1)。MS795の後代483株から農業形質に優れた完全不稔型(S2)155株、MS796の後代390株から187株を選抜し、各々隔離圃場でHO-MA-1を花粉源として採種し、細胞質雄性不稔系統HO-MS795-1、HO-MS796-1を得た。
  • MS795とMS796の各交配後代で雄性不稔型の割合が異なり、どの交配でもMS796の後代が完全不稔型(S2)の割合が高く出現した。これはMS795とMS796の核内遺伝子が異なることを示唆した(表1)。
  • 細胞質雄性不稔系統の完全不稔型(S2)の割合はHO-MS795-1が93.5%、HO-MS796-1が96.2%であった(表2)。
  • 細胞質雄性不稔系統及び不稔性を維持する花粉親系統はワセミドリより出穂期が2日程度早く、越冬性はワセミドリ並みに優れ、病害、収量性はワセミドリより劣った(表3)。

成果の活用面・留意点

  • 細胞質雄性不稔系統HO-MS796-1及び不稔性を維持する花粉親系統HO-MA-1を種苗登録に出願予である。
  • ヘテローシス育種のための素材として利用できる。
  • 道路法面,果樹園下草などへの利用の可能性があるが,緑化適性の検討が必要である。
  • 種子増殖にともなう世代による形質変化の検討は今後の課題である。

具体的データ

表1.細胞質雄性不稔個体(種子親)×正常稔性個体(花粉親)の後代における雄性不稔型の割合(%)

 

 

表2.細胞質雄性不稔系統の雄性不稔型の割合(%)

 

表3.細胞質雄性不稔系統及び維持系統の特性

 

その他

  • 研究課題名:オーチャードグラスの無花粉化系統の作出
  • 予算区分:大型別枠(新需要創出)
  • 研究期間:平成9年度(平成3年~平成12年)
  • 研究担当者:中山貞夫、高井智之、大同久明、水野和彦
  • 発表論文等:中山貞夫(1994):牧草の無花粉化系統の作出、新需要創出関係資料集、3、11-22
    中山貞夫、大同久明、坂本努、高井智之(1995):オーチャードグラスの細胞質雄性不稔個体の検出、北海道草地研究会報、29,92
    高井智之、中山貞夫(1997):環境制御下におけるオーチャードグラスの花粉稔性の経時的変化、育雑、47(別2)、86