アーバスキュラー菌根菌がかかわる前作効果におよぼす土壌水分・リン酸肥沃度の影響

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要約

アーバスキュラー菌根菌と共生する作物は、後作物の生育・収量を高める。この前作物の効果は、土壌のリン酸肥沃度をトルオーグリン酸25mg/100gまで高めても認められ、土壌水分が低い場合に大きい。しかし、前作効果がみられない土壌も存在する。

  • 担当:北海道農業試験場・生産環境部・養分動態研究室
  • 連絡先:011-857-9243
  • 部会名:生産環境
  • 専門:肥料
  • 分類:研究

背景・ねらい

アーバスキュラー菌根菌(菌根菌)非共生作物の栽培は土壌中の菌根菌密度を低減させるため、後作に栽培した菌根菌共生作物の菌根菌感染率、生育・収量は低い。一方、菌根菌共生作物の栽培は、後作物の菌根菌感染率、生育・収量を向上させる。この前作効果は、年次や場所により現われ方が異なる。菌根菌を考慮した作付順序が有効な場面を選定するために、土壌条件がこの前作効果におよぼす影響を検討する。

成果の内容・特徴

  • とうもろこしの生育は、ひまわり、とうもろこし、あずき、いんげん(菌根菌共生作物)の後作で優れ、そば、裸地、てんさい、シロガラシ(菌根菌非共生作物)の後作で劣り、この前作効果は土壌水分が低いほど大きい(図1)。一方、土壌水分が高まると、後作物の菌根菌感染率が向上し(図1)、土壌リン酸の有効性も改善されるため、前作効果は小さくなる。
  • 小麦の子実収量は、そば(菌根菌非共生作物)後に比べてひまわり(菌根菌共生作物)後で高く、この前作効果は土壌のリン酸肥沃度が有効態リン酸(トルオーグ法)25mg/100gまで認められる(図2a)。菌根菌感染率は、そば後に比べてひまわり後の小麦根で高いが、土壌の有効態りん酸の増加に伴い低下する(図2b)ため、リン酸肥沃度の上昇により前作効果はみられなくなる。
  • 北海道各地の土壌の中には、ひまわり後のとうもろこしの生育がシロガラシ後よりも優れる土壌と、ひまわり後とシロガラシ後のとうもろこしの生育比が1の土壌があり(図3)、有効態リン酸25mg/100g以下でも効果が認められない土壌が存在する。このような土壌間の差は、土壌-菌根菌-作物のそれぞれに効果的な組合せが存在するために生ずると考える。

成果の活用面・留意点

  • 菌根菌を考慮にいれた栽培順序を導入すべき場所を選定する際の判断材料となる。
  • 菌根菌の動態を調査するうえでの参考とする。
  • 土壌によっては前作効果のみられない要因を明らかにする必要がある。

具体的データ

図1.前作物が後作とうもろこしの生育と菌根菌感染率に及ぼす効果と土壌水分の関係

 

 

図2.前作物が後作春小麦の子実収量(a)、菌根菌感染率(b)に及ぼす影響と土壌のリン酸沃度の関係 図3.北海道内各地の土壌に栽培したひまわり後とシロガラシ後のとうもろこしの生育比

 

その他

  • 研究課題名:寒地型作物の土壌肥沃度改善効果の検定と評価
  • 予算区分:大型別枠(新需要創出)
  • 研究期間:平成9年度(平成6年~平成9年)
  • 研究担当者:唐澤敏彦、有原丈二、建部雅子、笠原賢明
  • 発表論文等:Effect of previous crops on the arbuscular mycorrhizal formation of maize plants under different soil moisture condition , Plant Nutrition for Sustainable Food Production and Environment, 761-762,1997