コムギ品種の耐凍性、耐雪性とフルクタン代謝の差異

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要約

コムギの耐雪性品種は耐凍性品種に比べてフルクタン含量が高く、単・二糖類含量が少ない。耐雪性品種のフルクタン合成酵素(SST)の活性は耐凍性品種より高く、この差異が蓄積糖の特徴の違いをもたらし耐雪性を高めている。

  • 担当:北海道農業試験場・地域基盤研究部・越冬ストレス研究室
  • 連絡先:011-857-9524
  • 部会名:基盤研究
  • 専門:生理
  • 対象:麦類
  • 分類:研究

背景・ねらい

厳寒・積雪地帯のコムギの越冬には高度の耐凍性と耐雪性(主に雪腐褐色小粒菌核病、雪腐黒色小粒菌核病及び好色雪腐病に対する抵抗性)が必要である。しか し、北方圏で越冬可能な耐凍性を持つコムギ品種の中では耐凍性と耐雪性には負の相関があることが報告されており、近年ハードニング中に蓄積する糖の種類と 蓄積量の違いがコムギの越冬性に強く関わることが分かって来たので、コムギの耐凍性と耐雪性を特徴づける糖蓄積の差異を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 12月上旬の春播き品種を含むコムギ18品種の耐凍性とクラウン組織に蓄積される糖の含量の相関をとると、単・二糖類、多糖類のフルクタンともコムギの耐 凍性と極めて高い相関を示すが、耐雪性品種はその耐凍性に対してフルクタン含量は高く、単・二糖類は低い方向へシフトしており、これらの品種のフルクタン 糖代謝の差異が見られる( 図1 )。
  • Norstar(耐凍性強、耐雪性弱)とCI14106(耐凍性弱、耐雪性強)のダブルハプロイド(DH)系統を用いての12月の可溶性糖の含量と耐凍性 (LT50)と好色雪腐病抵抗性(LI50)との相関を調べると、コムギの耐凍性は単・二糖類と高い正の相関が見られ、雪腐病抵抗性は単・二糖類とは負の 相関を示し、フルクタンとは正の相関を示す。また、単・二糖類含量と全可溶性糖消費量との相関が高い( 表1 )。 3. 耐凍性3品種と耐雪性3品種を用いたハードニング中のコムギの葉とクラウンにおけるフルクタン合成酵素 (sucrose:sucrosefructosyltransferase,SST)及び分解酵素(fructanexohydrolase,FEH) の活性変化をみると、耐雪性品種は耐凍性品種よりもクラウン組織において高いSST活性を示し、その差異はハードニング初期に大きい。( 図2 )。
  • 以上の結果、積雪下環境に適応した耐雪性コムギ品種は、耐凍性品種よりもフルクタン合成活性が高く貯蔵多糖が多くなる一方で、単・二糖類含量が減少して耐凍性が低くなる。また、このことがエネルギー消費の低下及び長期積雪下での蓄積糖の維持に結びつくものと考えられる。

成果の活用面・留意点

  • コムギの耐凍性、耐雪性の育種選抜に利用できる。
  • フルクタン合成関連酵素遺伝子の単離を進め、その利用を図る必要がある。

具体的データ

図1 12月のコムギ品種の耐凍性とクラウンに蓄積される糖含量と相関

表1 ハードニングしたコムギの蓄積糖と耐凍性・耐雪性及び積雪下糖消費量との相関

図2 ハードニング中のコムギ品種のSST及びFEH活性の変化

その他

  • 研究課題名:耐凍性に及ぼすハードニング物質の影響
  • 耐凍性・耐雪性に関する糖代謝とその分子制御機構の解明
  • 予算区分 :特別研究(ハードニング)
  • 研究期間 :平成10年度(平成7~10年)
  • 発表論文:M. Yoshida, J. Abe, M. Moriyama and T. Kuwabara, Carbohydrate levels among winter what cultivars varying in freezing toletance and snow mold resistance during autumn and wineter.Physiol. Plant. 103:8-16 (1998)
    吉田みどり、森山真久、川上顕 総説:低温認識による耐凍性と病害抵抗性の発現と分化、植物の化学調節 、33巻,2号,213-221(1998)