ジャガイモ疫病菌に新系統が出現

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要約

ジャガイモ疫病菌は交配型A1のUS-1系統から交配型A2のJP-1系統へ交替した後、これらの系統とは交配型、培養的性質、酵素の遺伝子型、病原性、あるいはメタラキシル耐性の点で性質の異なる複数の新系統が出現し、分布域を拡大している。

  • 担当:北海道農業試験場・生産環境部・病害研究室
  • 連絡先:011-857-9277
  • 部会名:生産環境
  • 専門:作物病害
  • 対象:いも類
  • 分類:研究

背景・ねらい

わが国では1980年代の後半から1990年代前半にかけて、ジャガイモ疫病菌の交配型A1のUS-1系統から交配型A2のJP-1系統へとほとんど置き替わった。このJP-1系統は多数の疫病抵抗性遺伝子保有品種を侵すことができ、殺菌剤メタラキシル耐性の強いものが多いので、防除対策や育種的対応が従来より困難になった。このように、系統の分布と割合がどのように推移していくかを調べることは、病害防除の点でも病原菌の生態解明の点でも重要である。そこで、ジャガイモ疫病菌の系統分布の継時的変化を調べるとともに、新たに出現した系統の性質を明らかにする。

成果の内容・特徴

  • 1996年に北海道網走地方で交配型A1の菌株が分離され、諸性質を調べることによってUS-1系統とは異なる新系統であることが確認された。その後新系統の分布域はしだいに拡大し、1997年には道央地方と道東地方で、1998年には北海道全域で分離された(図1)。新系統が分離される割合は道南地方で低かった。また、新系統は九州からも分離された。
  • 1996年以降に分離された交配型A1の菌株は複数の系統に類別できる。3つの新系統間で共通する性質は、塊茎スライス上の気中菌糸の長さ、グルコースホスヘート・イソメラーゼの遺伝子型、病原性レースである。系統によって大きく異なる性質は、オートミール培地上の菌糸生育、ペプチダーゼの遺伝子型である(表1)。
  • US-1系統と新系統との間で異なる性質は、塊茎スライス上の気中菌糸の長さ、グルコースホスヘート・イソメラーゼおよびペプチダーゼ遺伝子型、病原性レース、メタラキシル耐性である。一方、JP-1系統と新系統との間で異なる点は、交配型とペプチダーゼの遺伝子型であり、新系統Aや新系統Cとはさらにオートミール培地上の菌糸生育の点で異なる(表1)。

成果の活用面・留意点

  • 殺菌剤の薬効や有性世代形成に影響を与えるような疫病菌の系統の交替が起きていることが明らかになったことから、今後も系統の変遷に注意を払う必要がある。
  • この知見は他の病原菌の動態解明にも有益な示唆を与える

具体的データ

図1 ジャガイモ疫病菌の系統の分布

表1 ジャガイモ疫病菌の各系統の性質

その他

  • 研究課題名:ジャガイモ疫病菌の増殖・伝播機構の解明馬鈴しょの病害虫個体群の識別手法の開発と新系 統の出現・伝搬機構の解明
  • 予算区分 :経常、科振調
  • 研究期間 :平成10年度(平成8~12年)
  • 発表論文等:Occurrence of new strains of A1 mating type after displacement of an A1 strain by an A2 strain of Phytophthora infestans in Japan. 7th ICPP Abstracts.(1998)